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持ち帰ったキノコの処理


 採取したキノコを持ち帰ってからの処理について、いつもの手順を記述してみました。いつのまにか二人の業務分担もできあがってかなり無機的に処理をするようになっていました。

[4つに仕分け]
 持ち帰ったキノコはいったん以下の4つに区分けして処理しています。せっかく持ち帰ったキノコを腐らせたり捨てたりすることはほとんどありません。観察の終わったキノコの残骸などは市民農園の肥やしに化けています。そのためでしょうか、時々畑の片隅にとんでもないキノコが発生して周囲を驚かせています。見つけると慌てて潰して土を被せたりすることになります。

[観察用] 顕微鏡などで観察したり、乾燥標本とするためのもの
[標本用] 博物館に標本として収めたり、知人に送るためのもの
[試食用] 毒茸や食毒不明菌など、試食のために分けて扱う必要のあるもの
[食材用] 食材として利用するために、いったん虫抜きなどの処理をするもの

[虫抜き]虫抜き
 帰宅すると、採取記録をつけると同時に、「観察用」と 「標本用」 はいったん冷蔵庫の野菜ボックスに別途保管して、とりあえず食用キノコの処理にかかります。観察用の一部は、直ちに胞子紋を取るための処置をします。たいていのキノコは最初に「虫抜き」 を行ない、その後で当日の食材として使うものと、保存に回すものに仕分けして必要な処理にかかっています。
 虫抜きは、最近ではほとんどがキノコを完全に水没させる方法をとっています。これまでいろいろとやってみて、結局、最も簡単で効果の大きい水没法に落ち着きました。キノコの量にもよりますが、バケツなどに水を張ってキノコを水没させます。そのままでは浮き上がってしまうので、その上に水を張った洗面器などを置いてキノコを完全に水没させてしまいます。特に塩水を使ったりはしていません。
 この状態で30分ほど放置すると、傘裏の襞や管口などに潜んでいた小さな虫が大量にバケツの水面に漂い始めます。これを網ですくって捨て、必要なら水を交換します。これの処理を1回から3回ほど繰り返します。ほとんど虫が水面に浮かばなくなればOKです。ただ、キノコによっては水分を含みすぎて味わいを損ねてしまうものがあります。こういったキノコは短時間で手際よくやる必要があります。
 こうやって書くと、まるでいつもていねいに「虫抜き」をやっているかのように見えますが、現実には虫抜きを全く省力して、「虫も蛋白源!」などといってそのまま調理してしまうこともしばしばです。調理した汁の表面は、まるでケシ粒かゴマを浮かべたかのように見えることもあります。食べている人には「知らぬが仏」です。

[キノコの保存処理]

 いよいよ食材としてのキノコの処理にかかるわけですが、最初に保存に回すキノコの処理をしてしまいます。正月に食べるために保存しようとか、量が多いので後日の楽しみのために保存に回すキノコです。過去に何通りも試みてきましたが、最近ではたいてい乾燥保存、冷凍保存、瓶詰保存、塩蔵保存のいずれかの保存方法をとっています。


乾燥保存したアミガサタケ 冷凍保存したタマゴタケ 小分けにして瓶詰め保存

 冷凍用のパックの表面には、キノコ名、採取年月日、採取地を書いたラベルをつけて後日に備えています。また、瓶詰めは小さな瓶に小分けにして、ちょう一回量あたりを目安とした大きさのものを利用しています。江戸むらさきの瓶などが最適です。直ちに食材として使うキノコは、この後で調理にかかります。さっと湯通しするもの、ホイル焼きなどのために適当な塊ごとにアルミホイルで包むもの、焼いて食べるために傘と柄を適当な大きさに切り分けるもの、などなど色々です。

[いよいよ調理]
 採取したキノコの種類が少なく、量も少ないときなどは 「キノコ料理」 などについて触れた書籍などを参照して、手の込んだ料理を試みたりすることもありますが、たいていは以下のいずれかの方法で調理してしまうことが多くなっています。

生のまま、刺身/ワサビ醤油、網焼き/付焼き、ホイル焼き、味噌汁/鍋物、お吸い物、炊き込み、天ぷら/フライ、煮物/佃煮、和え物、ポタージュピザ、油炒め/野菜炒め、餃子、モツ煮込み、シロップ漬け

 キノコによって調理の向き不向きがあるので、なるべく素材の持ち味を生かした料理をするように心がけています。でも、特にキノコだからということは一切意識せずに、普通の野菜や肉などを扱うのと同じ感覚です。上記の大まかな分類は、過去に何度もやってみたり普段よくやる調理です。同じキノコでもその時の気分で幾つもの調理をしてみたり、収穫したキノコをすべていっしょにしてキノコウドンにしてみたりもします。よくダシのでるキノコを最初に鍋に放り込んでそれから野菜や豆腐を入れると、昆布や鰹節などのダシはほとんどいりません。ちなみに、我が家ではダシは基本的にほとんどがアシグロタケを使っています。ビールなどを飲みながらホイル焼きやら網焼きになったキノコを食べていると本当に幸せを感じます。特に寒い季節のキノコ鍋は最高です。

[顕微鏡による観察]
 調理にかかると同時に、観察の準備をしたり、博物館標本として送り出したりする準備に取りかかります。観察用としてすでに胞子紋をとったり、スケッチをするために形を保存しておきたいものを除いて、必要な部分を切り出してプレパラートを作成します。切り出しはおもに実体鏡の下でやっています。また、生のままでは顕微鏡標本を作るのに適さないようなキノコはいったん乾燥させてしまいます。顕微鏡観察では、最初切り出したものは、試薬や染色剤を使わず水だけで観察しています。次にKOHなりメルツァーなどの試薬にかけるようにしています。
 こうやって記述していると、まるですべて自分でやっているかのように見えますが、実はさにあらず。我が家で顕微鏡に触れる機会がもっとも多いのは、何を隠そう (別に隠してるわけでもないけれど!)、我が連合いなのです。カッティングの技術も私よりはるかに上というのが現実です。
 顕微鏡写真は双眼のオリンパスでは接眼部にデジカメを装着し、三眼のニコンでは正規の位置にデジカメを取り付けて撮影しています。いずれも適当なデジカメアダプタを装着しての撮影です。写真の顕微鏡の接眼レンズ右側に見えるピンク色のテープはそのためのものです。

[博物館標本の送り出し]
 標本は博物館で凍結乾燥をすることを前提にした扱いをしています。標本として送り出すものについては、博物館側の担当者と打ち合わせてからクール宅急便(冷凍)で送り出しています。その際、必ず担当者の在館日を確認して到着日と時間帯をクール宅急便に指定するようにしています。それまでは、自宅冷蔵庫の冷凍室に入れておきます。
 一般に宅急便扱い店の冷凍庫はかなり手狭で小さいものが多いので当てにしないほうが安全だからです。梱包材として魚屋などで分けてもらった発泡スチロールを使うようにしています。時間があるようなときは、アイスボックスにブロックアイスやドライアイスを詰めてそこに標本用のキノコを収めて車で運んだりすることもあります。要は、博物館到着時にしっかりした冷凍状態であることが肝心だと思っています。(1999/11 記)