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トップページのきのこ
アバタケシボウズタケ 静岡県浜松市南部には中田島砂丘が広がる。浜には広大な砂の斜面が広がり、大自然の造形である美しい風紋がみられる。砂は激しく動くので生き物にとっては過酷な環境といえる。そんな砂浜にもきのこは生きている。スナジクズタケ、スナジホウライタケ、コナガエノアカカゴタケ、アカダマノオオタイマツ、アカダマスッポンタケ、スナヤマチャワンタケ等など、思いのほか多くのきのこが生息している。
 トップページのアバタケシボウズタケ Tulostoma adhaerens Lloyd もそのひとつだ。ケシボウズタケ属 (Tulostoma) にも多くの種が知られているが、中田島砂丘をはじめ遠州灘では5〜6種のケシボウズタケ属菌がみられる。しかし、それらの中で最も高い頻度で見られるのがこのアバタケシボウズタケだ。

 ケシボウズタケ属は伝統的な分類では、ホコリタケ、チャダイゴケ、クチベニタケ、スッポンタケなどと同一グループとされ、腹菌類と呼ばれてきた。近年、DNA分子系統解析等の成果を踏まえて、菌類の分類は大きく見直されることになった。スッポンタケはホウキタケと同一グループとなり、ケシボウズタケ科とは袂を分かった。Tulostomatales ケシボウズタケ目は解体され、各科はハラタケ目 Agaricales の一員となった。ケシボウズタケ科 Tulostomataceae には、ケシボウズタケ属のほかに Queletia (オニノケヤリタケ属)、Schizostoma、Battarrea、Battarreoides、Chlamydopus といった属がある。そしてわが国では若干の Tulostoma とごくわずかの Queletia だけが記録されている。

アバタケシボウズタケ "Dictionary of the Fungi 10th Edition"(2008) によれば、ケシボウズタケ属のきのこは、世界中に分布し80種ほどあるという。しかし、なぜかわが国には長いこと4〜5種しか知られていなかった。近年になって3種ほど追加された。
 今現在、T. brumale (ケシボウズタケ)、T. squamosum (ウロコケシボウズタケ)、T. fimbriatum var. campestre (ナガエノホコリタケ)、T. fimbriatum (アラナミケシボウズタケ)、T. striatum (ウネミケシボウズタケ)、T. fulvellum (タネミケシボウズタケ) そして T. adhaerens (アバタケシボウズタケ) という 7種類が報告されている。正式報告はされていないが、このほかに T. kotlabae、T. cyclophorum、T. melanocyclum といった種が確認されている。ほかにも、3〜4種の未確認種があるようだ。詳細に探索すれば、さらにいくつかの種がみつかるのではないだろうか。

 アバタケシボウズタケアバタケシボウズタケは頭部のサイズのわりに小さな口をもち、胞子に大きな疣がある。頭部には外皮の名残などが内皮と渾然一体となって残り、その名の由来どおりの「あばた」面となるものが多い。胞子表面は、光学顕微鏡では、単に大きな疣にしか見えないが、電子顕微鏡 (SEM) でみると非常に興味深い姿をしている。毛糸玉の表面を摘みあげたような姿をしている。
 この仲間は砂地や荒地に発生する。国内では遠州灘ばかりではなく、鹿島灘、九十九里浜、東京湾、伊勢湾から九州の浜に至る広い範囲で確認されている。従来、ケシボウズタケ T. brumale とされてきたものには、アバタケシボウズタケがかなりの確率で混じっている、あるいは誤同定されてきた恐れが大きい。
 わが国でもっともポピュラーなケシボウズタケ属菌は何だろうか。上位三つをあげると、ナガエノホコリタケ、アバタケシボウズタケ、ウネミケシボウズタケだろう。一方、ケシボウズタケやウロコケシボウズタケはこれらの三つと比較すれば、圧倒的に少ない。(2008.12.18 記)