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[標本番号:No.4   採集日:2006/07/30   採集地:山形県、米沢市]
[和名:コツボゴケ   学名:Plagiomnium acutum]
 
2006年8月9日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 山形県米沢市の山の中で採取したコケを顕微鏡で観察してみた。やや薄暗い樹林の下、沢沿いの岩の上にあった。残念ながら、胞子体をつけた株には出会えなかった。直立茎と匍匐茎をもっていて、外見から判断したところチョウチンゴケ科かカサゴケ科の蘚のようだ(a, b)。
 葉は卵形で中肋は先端まで届き、先端が尖っている(c, d)。葉の縁には細長い細胞からなる舷があり、先端に近い部分には歯がある(e)。葉の細胞はやや厚い壁をもち、不規則な六角形をしている(f)。中肋の細胞は細長い(g)。
 葉を横断面で切り出した(h)。わりと大きめの葉ではあるが、横断切片の切り出しは意外と難しい。中肋の部分の組織は単純で、ガイドセルとかステライドといった明瞭な分化はみられない(i)。葉の細胞は基部から一層で、表面には乳頭などもない(j,k)。葉の先端の舷の部分の細胞は、厚い細胞壁をなしている(l)。
 検鏡結果からカサゴケ科の線は消え、チョウチンゴケ科の線が濃厚になった。図鑑の検索表にあたってみた。すぐにツルチョウチンゴケ属におちることがわかった。そこでツルチョウチンゴケ属の検索表にあたった。ツボゴケないしコツボゴケに落ちる。染色体数は調べていない。そこで、葉身細胞のサイズを計測してみた。大きさが比較的均一で、20μmを超えない。
 どうやらチョウチンゴケ科のコツボゴケ Plagiomnium acutum (Lindb.) T.J.Kop.らしい。胞子体がなく、染色体数のチェックもしなかったが、なんとか種名にまでたどり着けた。きのこの同定と似たような手順を踏んでみたが、方法としては大方間違っていないようだ。

[修正と補足:2006.11.06]
 この頃には、問題のコケが、雌雄同株なのか雌雄異株なのかについて、あまり注意していなかった。そのため、雄苞葉をつけた株や胞子体をつけた株などを探して採取することはしなかった。保育社の図鑑によれば、雌雄同株ならツボゴケ Plagiomnium cuspidatum、雌雄異株ならコツボゴケ P. acutum とある。したがって、この蘚類はどちらになるのかは、はっきりしない。