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[標本番号:No.44   採集日:2006/12/10   採集地:埼玉県、名栗村]
[和名:ホソバオキナゴケ   学名:Leucobryum juniperoideum]
 
2006年12月11日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 昨日埼玉県名栗村の杉林を鍾乳洞に向かって歩いたときのことだ。小径の両脇の杉の下部がほとんど白緑色のコケに被われていた(a)。杉の樹幹に着生して乾くと白っぽくなれば、まず十中八九ホソバオキナゴケだと、多くのコケ関連の本には書いてある。
 多分ホソバオキナゴケだろうとは思うのだが、自分の見る目に全く自信がもてなかったので、持ち帰って検鏡してみることにした。近づいてみたり(b)、ルーペで見ると、確かに葉先は長く伸びた披針形で、葉は強く内曲している(c, d)。翼部は発達していない(e)。
 井上浩「フィールド図鑑 コケ」では、「(葉に)中肋はない」と記されている。一方、保育社「原色日本蘚苔類図鑑」では、シラガゴケ科の説明に「中肋はよく発達し」とある。中村他「校庭のコケ」には「葉の大部分は中肋で占められ」とある。正反対の記述である。
 ただ、いずれの書にも、背腹の大きな透明細胞の層に挟まるように1列の小形の葉緑細胞があることは記されている。そして「原色図鑑」には、「葉の基部の最も厚いところで、葉緑細胞の背面に3-5層、腹面に2層の透明細胞があるが、中央部のみは2細胞層しかなく、この部分でくびれたように見える」とある。あらためて、この部分を確認したいと思った。
 そこで、葉の先端近く、中央部、基部近くで横断切片を切りだしてみた(f〜i)。これらをみると、確かに「原色図鑑」に記述されていることが納得できた。これらの横断切片をよく見ると、横断面の両端に1層の葉身細胞からなる部分がある(h, i)。これ以外の部分は、大部分が背腹の透明細胞と小さな葉緑細胞からなり、最低でも3層からなる。
 この3層以上の部分を前記井上書では「中肋はない」と判断し、他の書では「葉の大部分は中肋」と捉えたのだろうか。コケの中には、ホソホウオウゴケのように、葉身細胞の大部分が多層からできているものがあるが、大部分のコケでは単層である。葉身細胞は原則として単層と考えれば、ホソバオキナゴケの葉の大部分は中肋部となる。一方、他と明らかに組織構成が異なる部分を中肋と考えれば、井上書のように「中肋はない」となる。
 まぁ、この件はどちらでもよいが、確かにホソバオキナゴケの葉を観察すると、葉の先端部と中央部、基部近くでは、小形の葉緑細胞をはさむ透明細胞の層構成に違いがみられる。複数の葉を一緒に切ると面白い姿が得られた(j)。ヘビがとぐろを巻いているかのようだ。こんど野外でこのコケに出会ったら、ホソバオキナゴケ Leucobryum juniperoideum である、とすぐに分かりそうだ。少しずつ自信のもてるコケが増えてきた。