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[標本番号:No.45   採集日:2006/12/10   採集地:埼玉県、名栗村]
[和名:コムチゴケ   学名:Bazzania tridens]
 
2006年12月12日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 埼玉県名栗村の薄暗い杉林で、杉の樹皮にホソバオキナゴケとともに広範囲に着生していた苔類を観察してみた(a, b)。長さ1.5〜4cm、幅は葉を含めて1.5〜2.5mmで、二叉分枝する(f)。葉の付き方は倒瓦状である(c〜g)。(d)(f)(g)はルーペの下、(e)は顕微鏡下の画像。
 葉は舌形で先端は切形をなし鈍い歯が2〜3ある。腹側には褐色を帯びた透明な腹葉がある。腹葉は茎の1.2〜1.3倍ほどの幅、丸みがかった四角形で、茎に接在している(c, d)。これは葉を取ってしまうとより明瞭にわかる(i)。一部の茎の先端には、無性芽らしき組織がある(g, h)。葉身細胞は多角形で、トリゴンは小さく、紡錘形〜楕円形の油体が 4〜6つみられる(j)。
 さて、以上の観察をもとに図鑑にあたってみることにした。検索のためのキーとしては、何があるだろう。葉が倒瓦状であり腹片をもたず、四角形で透明な腹葉をもつ、二叉分枝をする、葉身細胞にトリゴンがほとんどみられない、紡錘形の油体がある、などだろうか。
 「倒瓦状」と「腹片を持たない」をキーワードに科を絞ると、残るのはムチゴケ科 Lepidoziaceae と、ツキヌキゴケ科 Calypogeiaceae の二つに絞られる。次に「油体」をキーワードとしてみると、ツキヌキゴケ科は考えなくてよいことになる。
 ムチゴケ科のコケで、観察結果と近い種をたどってみた。近いのはムチゴケとコムチゴケである。ムチゴケにしては極端に小さすぎる。そこで、コムチゴケの記述を詳細に読んでみた。「鞭枝は長くて多い」との記述がある。腹葉の脇からは、仮根のような組織が所々に多数みられるが、これが鞭枝なのか仮根なのか分からない。
 観察不足は免れないが、図鑑には杉の樹皮などに着生するとの記述もある。鞭枝のたまたま少ない群を採集してきたのか、そういうステージのものを採集してきたのかもしれない。とりあえず、コムチゴケ Bazzania tridens として扱っておくことにした。

[修正と補足:2006.12.14]
 12月14日に、千葉中央博の古木達郎博士に見ていただいた結果、コムチゴケでよいとのことだった。どうやら太平洋側では、埼玉が分布の北限らしい。