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[標本番号:No.61   採集日:2006/12/25   採集地:東京都、八王子市]
[和名:コセイタカスギゴケ   学名:Pogonatum contortum]
 
2007年1月6日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 東京の高尾山で、昨年12月25日、沢沿いの岩上腐植土をスギゴケの仲間が一面に絨毯のようにおおっていた(a, b)。乾燥すると葉は巻縮して茎に接するようになる(c)。茎の背丈は3-5cm、葉は6-8mmほどで、枝分かれはない。
 茎も葉も丈夫で、ルーペで拡大するとまるで万年青のようだ(d)。葉は全体が薄板におおわれている。葉縁は全周にわたって歯があり、先端ほど密になっている。舷の部分は、明色で厚膜の細胞からなる(e〜g)。翼部の葉身細胞は矩形〜多角形の厚膜細胞からなっている(h)。
 葉の横断面をみると、腹側の全面に薄板がある(i)。薄板を構成する細胞は、横断面で3〜4列からなり、頂端細胞にはパピラがある。頂端細胞には二裂するものやら(j)、円錐状のものなどもある。葉を縦断面で切ると、複数の細胞層からなる葉身細胞上に薄板が連なっている(k)。茎の横断面を見ると、厚壁の細胞が密集している(l)。
 朔をつけた個体が見つからなかったので、スギゴケ属なのかニワスギゴケ属なのかよくわからない。そこで、薄板の頂端細胞の形状を検討してみることにした。先ず、頂端にパピラを持っていること、3〜4列の細胞からなっていること、先端の二裂した頂端細胞を持つことなどを考慮して、スギゴケ属ではなく、ニワスギゴケ属だろうと判断した。
 ニワスギゴケ属 Pogonatum の中で、上記の薄板を持つものにはセイタカスギゴケ Pogonatum japonicum しかない。しかし、セイタカスギゴケはスギゴケの中でも最大級の大きさがあり、葉の長さも10-18mmととても長い。ここで取りあげたものは、背丈は小さいし、葉の長さに到ってはあまりにも小さい。葉や全体の形態からみるとコスギゴケ Pogonatum inflexum に見える。セイタカスギゴケにしてもコスギゴケにしても、腑に落ちない点がいくつもある。
 このコケに該当する種を図鑑からは得られなかった。ニワスギゴケ属とする根拠にもスギゴケ属とする根拠にも乏しい。今はスギゴケ科 Polytrichaceae とまでしか判断できない。

[修正と補足:2007.1.17]
 今日、千葉県立中央博物館を訪ねた。古木博士に同定していただいたところ、コセイタカスギゴケ Pogonatum contortum だとのことだった。典型的な姿ではないようだ。