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[標本番号:No.86   採集日:2007/01/31   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:タマゴケ   学名:Bartramia pomiformis]
 
2007年2月2日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 1月31日に東京奥多摩の御岳山を歩いてきた。主たる目的は、冬の日だまりハイキングとチャワンタケ類のキノコ探索だった。帰宅してみると、何種類かのコケを持ち帰ってきたので、これを少しずつ調べてみることにした。
 鳩ノ巣渓谷から歩き出して、御岳山裏参道の杉林を進むと、道脇の斜面に細長い繊細な葉をもったコケがやたらに目立った(a, b)。密につけた葉は非常に細長く(b)、柄の基部には褐色の仮根らしきものがフェルト状にビッシリとついていた(c)。朔をつけたものはなかった。
 茎は長さ4〜9cm、ほとんど分岐はみられず、茎の半分ほどは褐色の仮根を伴っている。葉は基部が鞘状に茎につき、そこから線状披針形に長く伸びる(d, e)。葉の長さは5〜8mm、乾くと巻縮する。中肋は葉頂から線状に突出し、線状の部分には鋭い歯が目立つ(f)。
 葉身部には鋭い歯が並び、筒のように丸まっている。葉身細胞は方形〜矩形で、先端近くはやや正方形に近いが、基部に近づくにつれて細長くなる(g, h)。葉身細胞には顕著で目立った大きな乳頭がひとつからふたつみられる(h〜j)。これは実体鏡でもわかるが、顕微鏡で合焦位置をずらすと露骨にわかる。鞘状の基部の葉身細胞は細長く、他の部分と異なり平滑で乳頭はみられず、赤みを帯びた状態のものが多い(k, l)。
 周りの葉や鞘部と一緒に茎を横断面で切ってみた(m)。表面にはやや肥厚した小さな細胞が並び、内部は大形で薄壁の細胞からなる。一緒に切り出した葉の横断面をみると、中肋部がよく発達し、ガイドセルやステライドが明瞭に捉えられている(m〜o)。
 仮根には太い紐状のものと細い糸状のものがあり(p)、その表面は、いずれも密に乳頭で覆われている。低倍率で観察すると、まるで鎧のように、全面が短い針で覆われているかのように見える。非常に特徴的だ。このような仮根はこれまで見たことがない。
 最初シッポゴケ科ではないかと思った。しかし、葉の大部分に大きな乳頭があり、発達した中肋部には薄板のような構造はない。さらに特徴的な仮根をもっている、などから、このコケに該当する属は、シッポゴケ科にはない。さらに、葉の縁は薄く一層の細胞からなり、葉の基部に発達した鞘部がある、仮根に密な乳頭があることなどから、ヒノキゴケ科でもない。
 朔をつけていればおそらく一目瞭然でタマゴケ科だと分かったかもしれない。丸い朔をもったコケに出会ってみたいと思っていたが、これまで一度も出会ったことはない。これは典型的なタマゴケ属の特徴を備えている。タマゴケ Bartramia pomiforimis に間違いなかろう。