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[標本番号:No.102   採集日:2007/02/12   採集地:静岡県、静岡市]
[和名:ユミゴケ   学名:Dicranodontium denudatum]
 
2007年2月17日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 南アルプス南部の林道脇、標高1,200mほどの尾根上の唐松の樹幹に小さなビロード状のツヤを持ったコケが着いていた。カラカラに乾燥していたが、小さな塊状のコケは針の様な葉が密集していた(a)。樹皮ごとはがして霧吹きで湿らしてみたが、乾燥時と大きな違いはない(b)。
 分枝はなく、茎の高さ1.5〜2.0cm、茎の上部に針状の葉が密集し、途中で折れて先端を失った葉が多い(c)。葉は卵形の基部が急に細くなった披針形で、長さ5〜6mm、中肋が葉先からそのまま針状に長く伸びる(d)。長い針状の先端部とその周辺には微歯が見られる(e, h)。
 葉身細胞は、細長い矩形〜線形で、長さ20-40μm、幅4-9μm(f)、葉の先端部ではやや幅広で長さは短く(h)、翼部では明瞭に分化した大型褐色の細胞からなっている(g)。葉の横断面を4ヵ所で切り出して中肋などの様子を観察した。鞘部では中肋の占める比率が、葉幅の1/4〜1/3ほど、葉先に近づくにつれて中肋部の比率が高くなり(j, k)、突出した芒の部分では大部分が中肋のみとなっている(l)。さらに先では葉の内曲も見られなかった。茎の横断面を見ると、表皮部分に厚膜で小さな細胞、内部にやや厚膜の大きな細胞があり、中心束ははっきりしない。
 非常に脆い葉をもったコケで、霧吹きで水を吹きかけただけでも、葉の芒の部分が簡単におれ、やや強く霧をあてると、簡単に茎から葉が落ちてしまう。シッポゴケ科だろうと見当をつけて検索表をたどると、ユミゴケ属とシシゴケ属が近い。
 しかし、ガイドセルとステライドばかりからなる中肋であるとか、葉身細胞の形態から、ユミゴケ属と思われた。今では、ユミゴケ Dicranodontium denudatum として扱っておくことにした。図鑑の記述によれば、ユミゴケは「山地の日陰の岩上、腐木上や腐植土上に群生する」とあるが、採取した標本は、それらのいずれとも異なり、カラマツの樹幹に着生していた。また、周辺の腐植土や岩上に同一種と思われるコケはなかった。