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[標本番号:No.105   採集日:2007/02/12   採集地:静岡県、静岡市]
[和名:タニゴケ   学名:Brachythecium rivulare]
 
2007年2月21日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 今月12日に南アルプス南部の水流に濡れた岩壁にコケが群生していた(a)。静岡県民の森に近い標高約1,100メートル、小沢の支流が林道に面した場所である。そのうちから2種類のコケを採取した。今日はそのうちのひとつを観察した(b, c)。
 一次茎が岩壁を這い、二次茎が斜上し、そこから若い枝が立ち上がり気味に着いている(c)。全体として不規則な羽状〜樹状の形となっている(d)。枝は長さ1〜2cm、太さ0.8〜1mm。やや硬い感じがしたが、乾燥するとさほどでもなくなった。乾燥しても、湿時と姿はあまり変わらない。一次茎の葉は褐色で形がすっかり崩れているので、詳細な観察は断念した。
 二次茎の葉は広卵形で、先が細くなって尖り、葉頂付近に微細な歯があり(f)、中肋は葉長の3/4前後、先端は曖昧に消えている(e)。二次茎の葉の葉身細胞は、先端では長めの菱形〜紡錘形(f)、葉の中央部では長い多角形〜線形で、長さ35〜65μm、幅5〜10μm(h)。翼部には、大きな矩形で、長さ40〜60μ、幅10〜15μmの細胞が並ぶ(h)。翼部の少し上で横断面をみると、厚壁の細胞からなる中肋に隣接する葉身細胞の径の大きさがよく分かる(i)。
 若い枝の先端近くの枝葉は小形で卵状披針形(j)、葉の周囲には歯があり、中肋が葉長の3/4ほどの長さで、背面の先端には針がある(k)。この茎葉の葉身細胞は、先端では長めの菱形(l)、中央部では長めの多角形(m)、翼部では矩形であるが(n)、茎葉と比較して、サイズが一回り小さなものが多い。葉の2ヵ所で横断面を確認してみた(o〜q)。
 しかし、多くの枝では、基部の幅がやや狭い茎葉と似た形をしていて、中肋の先端は不明瞭となり、背面に針のような構造も見られない。大きさも茎葉とほぼ同じである。葉の横断面での構造も二次茎の葉のそれとよく似通っている。
 なお、茎の横断面をみると、表層部にはやや厚壁の小さな細胞、内部には大型の薄膜の細胞からなり、中心束が見られる(r)。上記の補足として、二次茎の葉は長さ1.0〜1.5mm、枝葉は小さいタイプで長さ0.6〜0.8mm、大きなタイプでは長さ0.9〜1.5mm。葉の基部はいずれのタイプの葉も、やや下延している。茎には毛葉のようなものは見られない。

 茎が這っていること、不規則に羽状〜樹状に分枝すること、葉の基部が多少下延していること、一本の中肋が葉長の3/4ほどあること、さらに葉身細胞が平滑、茎に毛葉がない、などからアオギヌゴケ科だろうと思う。
 小さいタイプの枝葉中肋の先端に針があることを考慮すると、ツルハシゴケ属やカヤゴケ属も考えられるが、同じ枝葉でも大型の葉の中肋には針は無く、茎葉でも中肋先端に針のあるものは非常に少ない。中肋背面先端に針を持ったものがあるのが気になるが、キブリナギゴケ属かアオギヌゴケ属の可能性が大きいかもしれない。いずれにせよ、現時点ではどの属になるのか全く分からないので、アオギヌゴケ科として扱っておくしかない。

[修正と補足:2007.02.24]
 今日(2006年2月24日)、国立科学博物館の樋口正信博士に標本と観察記録を見ていただいた。この標本は、タニゴケ Brachythecium rivulare であるとの回答をいただいた。中肋背面先端の針(k)は、別の種が混生していた可能性が大きいとのことだった。群の中に少数の近縁種が混在して出ていることは珍しくないという。なお、この観察結果をアップしたその日(2月21日)に早くも、識者の形からタニゴケではあるまいか、といったご指摘をいただいていた。樋口博士、丹後様ありがとうございました。