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[標本番号:No.123   採集日:2007/02/25   採集地:栃木県、佐野市]
[和名:コウヤノマンネングサ   学名:Climacium japonicum]
 
2007年3月7日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月25日、栃木県佐野市の山中を歩く機会があった。渓谷に沿って進んでいくと、腐葉土の斜面にコウヤノマンネングサとヒノキゴケのみごとな群が出現した。
 コウヤノマンネングサについては、さる2月11日に静岡県寸又峡温泉で初めて見たので、今回が2度目となる(覚書2007.2.14)。現地で直ちにコウヤノマンネングサであると分かったが、今後は朔でもつけていない限り、採集することもないと思われるので、少していねいに写真を残しておくことにした。ヒノキゴケについても、この機会に詳しく撮影しておこうと思う。

 コウヤノマンネングサは、渓谷沿いのやや湿り気のある腐葉土の斜面のあちこちに群落をつくっていた(a, b)。群落の数はゆうに百を超えていた。掘り出してみると、地下を這う茎から7〜20本ほどの茎がイモズル式に繋がってでてきた(c)。大きな茎は高さ15cmにも及ぶ。
 最初に立ち上がった堅い茎に密着してついている茎葉を観察してみた(d)。先に観察したときには茎葉の先は尖っていたが、今回観察したものは、いずれも、葉全体が広卵形〜丸みを帯びた三角形で、縁は全縁、中肋が葉長の4/5ほどまで延び、葉頂は丸い(e)。
 茎葉の葉身細胞は、中央部では長さ40〜90μm、幅8〜12μmで、細長い線形ないしイモムシのような形(f)、基部では厚壁の矩形となっている(g)。茎葉の横断面をみると、中肋は扁平で、厚壁の細胞からできている(h, i)。

 次に、枝葉を見ることにした(j)。枝葉は狭い三角形で基部には縦シワがみられる(k)。葉長は2〜2.5mm、葉先から上半部には鋭い刺があり、中肋が葉頂近くまで伸びる。中肋の背面にも疎らに刺がみられる(l)。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 枝葉の葉身細胞についても先端、中央部、翼部を見た。先端では菱形で(m)、中央部では長さ30〜50μm、幅5〜8μmの長い菱形〜楕円形(n)、基部では長さ20〜40μmの矩形で、どの部分も、茎葉の葉身細胞より短い。枝葉の横断面は、下部(p)、中部(q)ともに、茎葉の中肋(h, i)と比較すると、中肋は丸みを帯びているが、構成する細胞は同じように厚壁である。
 茎葉と枝葉を比較するために、両者を横断面で並べてみた(r)。なお、茎の断面を切り出すと、副産物として、多数の茎葉の横断面ができあがった(s)。枝葉をよく見ると、金平糖を引き延ばして楕円形にしたような組織が多数みられた。これは無性芽なのだろうか(t)。
 最後に茎の横断面を切り出してみた。枝には中心束はなく(u)、茎にはごくわずかに中心束が見られる(w)。いずれも表皮細胞は厚膜の小さな細胞から構成される。サイズを分かり易くするために、両者とも同一倍率の写真も掲げた(v, x)。

 ふだんコケを観察する場合、肉眼による外見的特徴を詳細に検討してから、顕微鏡や実体鏡などを使ってミクロの観察をしているが、顕微鏡写真を撮るのは、それらのうちのごく一部に過ぎない。ここまで詳細な撮影をしたのは初めてである。顕微鏡を使っての観察は案外短時間で済むが、いちいち撮影をするとなると、思いの外時間がかかることが分かった。