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[標本番号:No.176   採集日:2007/04/07   採集地:栃木県、日光市]
[和名:クサゴケ   学名:Callicladium haldanianum]
 
2007年4月17日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 合併で日光市はとても広くなり、北は福島県境に接する。その福島県境の標高860〜900mの渓谷で、黄緑色のツヤのあるコケが、転がった腐木を一面に被っていた(a)。茎の途中からは、長さ2〜3cmほどの赤色の柄をもった朔を多数伸ばしている(b)。
 茎は這い、長さ1〜2cmほどの枝を不規則に羽状に出している。茎は葉を含めて1〜1.2mmの幅で、茎葉はやや丸くつき全縁で、長さ2〜3mm、卵状披針形で葉先は尖る。枝葉も全縁で、卵状披針形だが、茎葉よりもやや狭く、長さ1.5〜2.5mm、時に葉先が軽く捻れる(e)。茎葉も枝葉も中肋は2本で非常に短く目立たない。茎には披針形の偽毛葉がみられる(f)。
 葉身細胞は葉先ではやや幅広く5〜7μm、葉身の大部分では幅3〜5μm、長さ75〜100μmの線形で、翼部では薄壁方形の褐色を帯びた細胞が明瞭な別区画を作っている(g〜i)。葉の横断面を切り出してみると、葉身細胞の壁が意外と厚い(j)。
 太い茎の部分と枝の横断面を同一倍率で一枚の画像に並べてみた。いずれも表皮細胞は厚壁の小さなものから構成されている。朔柄は長さ2.5〜3cmで、朔は傾き、蓋はやや長い円錐形で、朔歯は内外2列で16枚(c, l)。

 当初、ナガハシゴケ科の蘚類かと思ったが、該当する属がみつからない。またナガハシゴケ科にしては朔柄が長い。次にハイゴケ科の検索表をたどるとクサゴケ属にたどり着いた。そこに掲載されていたクサゴケ Callicladium haldanianum の記載をよむと、観察結果とほぼ一致した。クサゴケは昨年10月に一度観察している(覚書2006.10.6)。その時観察したコケは当時2ヶ月以上前に日光戦場ヶ原で採取したものだった。このコケ(標本No.15)を再度観察すると、今日観察した標本(No.176)とほぼ同じ結果を得た。昨年の標本もクサゴケでよさそうだ。