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[標本番号:No.201   採集日:2007/04/29   採集地:栃木県、日光市]
[和名:シダレヤスデゴケ   学名:Frullania tamarisci ssp. obscura]
 
2007年5月22日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 4月末の日光で、テガタゴケの着いていた同じ針葉樹の樹幹(a)に、暗紫褐色のツヤのある苔類が混在していた(b, c)。ルーペでみると明らかにテガタゴケとは別属のものだった。
 茎は長さ3〜5cm、幅は葉を含めて0.5〜0.8mm、羽状に分枝し、倒瓦状に葉をつける。葉には背片と腹片があり、腹葉も持っている(d, e)。背片は卵形で全縁、先端がわずかに尖って腹側に巻き込んでいる(f)。まるで中肋のように、葉の中央に赤褐色の眼点細胞が並んでいる。並びは、多くが1列だが、2列並ぶものもある。眼点細胞の数は、各背片ごとに9〜16個ほどある。
 腹片は、先端の丸い砲弾状で、やや長めの柄で茎に並行に並んでいる(g, h)。腹葉は、茎径の2.5〜3倍幅の卵形〜楕円形で、基部が下延し全縁、先端が1/4〜1/5まで2裂する(g, h)。背片の葉身細胞は長径13〜25μm、細胞壁が厚くトリゴンの大小は不明(j)。眼点細胞は、他の細胞よりずっと大きく、中には大型の油体がみられる。腹片の葉身細胞は、背片の細胞より若干小さい(k)。茎の断面には、組織の分化はほとんど見られない(l)。

 葉の付き方が倒瓦状、腹片は小さく筒状、複葉をもつ、背片と腹片との繋がりはごく狭い、などからヤスデゴケ科の苔類だろう。背片が全縁なのでヤスデゴケ属に落ちる。属の検索表をたどると、腹片が円筒形で、背片から上向きについているから、4〜5種に絞られる。さらに、8つ以上の眼点細胞があるので、シダレヤスデゴケかアオシマヤスデゴケに絞られる。
 アオシマヤスデゴケは、眼点細胞が普通2列以上で、複葉の切れ込みが葉長の1/2に及ぶという。さらに複葉の基部は下延しない。したがって、シダレヤスデゴケ Frullania tamarisci ssp. obscura の可能性が高い。近似種としてイワツキヤスデゴケがあるが、これは背片が円頭で、腹片は茎側に傾くという。シダレヤスデゴケについていくつかの図鑑、文献を読むと、ほぼ観察結果と合致する。
 樹幹に広がっていたシダレヤスデゴケは、一部でテガタゴケと複雑に入り組んで枝を広げていた。分けて持ち帰ったにもかかわらず、少数のテガタゴケが混在していて、分けるのに苦労した。テガタゴケの標本にも少数のシダレヤスデゴケが混じっていた。