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[標本番号:No.205   採集日:2007/04/29   採集地:栃木県、日光市]
[和名:イタチゴケ   学名:Leucodon sapporensis]
 
2007年5月30日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月29日に日光で採取したコケが、まだいくつも残っている。そのうちのひとつ、標高1,400mのカラマツ・カンバの樹林で、樹幹に獣の尻尾のような形のコケがついていた(a, b)。
 湿ると葉が枝から離れて全く違った印象を与える(c)。枝を一本とりだして、乾燥状態(d)と湿った状態を比較してみた(e)。一次茎は非常に細く、ほとんど葉をつけず樹幹をはっている。二次茎は、3〜8cmほどの長さで、斜めに伸び上がり、ごくわずかに分枝する。
 葉は非常に密につき、乾くと茎に強く密着する(d)。葉は長さ2.5mm前後で、卵状披針形で、ほぼ全縁、中肋はなく、葉面には縦皺が何本も入る(f)。葉身細胞は、先端の尖った部分では、厚壁のウジ虫型(g)、葉の大半では、長楕円形〜線形で、長さ30〜60μm、やや厚壁。
 葉の基部では葉身細胞の様子が他とは極端に異なる。厚壁方形の細胞が葉長の1/3を超えるあたりまで、葉の翼部から縁に沿って並び、縁の内側から中心部あたりでは、くびれた細胞膜をもつ厚壁の長方形の細胞もみられる(f, i)。
 葉の横断面を色々な部分で切り出すと、縦皺の様子がよくわかる(j)。横断面からみた葉身細胞は、葉の位置によって細胞の大きさは異なるが、いずれも1細胞層からなる(k)。茎の横断面をいくつもみたが、どれにも明瞭な中心束といったものを見つけられなかった(l)。

 イタチゴケ科には間違いなかろう。中肋が無いからリスゴケ属ではない。葉に縦皺が多数あるから、シワナシチビイタチゴケ属でもない。となると、残るのはイタチゴケ属となる。イタチゴケ属の正確な同定には朔がないとかなり困難らしい。残念ながら朔をつけた個体はなかった。
 やむなく、推定で検索表をあたり、観察結果と近い形質状態が記述された種を総当たりした。該当する種は見あたらないが、比較的近いと思われるのがイタチゴケ Leucodon sapporensis だった。しかし、イタチゴケの二次茎には中心束があるとされる。しかし、観察結果では、中心束があるようにはみえない(l)。イタチゴケ以外の種と想定すると、記述と観察結果にはさらに多くの相違点がある。とりあえず現時点では、イタチゴケとして取り扱っておこう。