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[標本番号:No.207   採集日:2007/04/29   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ヒメカモジゴケ   学名:Dicranum flagellare]
 
2007年6月1日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 日光の標高1,400m付近で、倒れたカンバの腐木をマット状に覆っていたコケを採取した。以前に何度も観察したコケだろうと思って、生態写真は撮影せずに、ひとかたまりだけ持ち帰った(a)。マットの厚みは2〜2.5cmあったが、腐木をはがすと、茎の長さは1〜2cmだった。
 個体を分けてみると、茶褐色の部分が長く、緑色の茎葉の部分は以外と短い(b, d)。乾燥すると葉は巻縮するが、湿らすと直ぐに開く(d, e)。よく見ると、一部の茎では、上部の葉の腋から小枝状のものでている(d, e)。この小枝状のものは無性芽らしく、長さ2〜3mmで、小さな葉が茎に密着するようについている(q, r)。
 葉はやや広い基部から披針形にのび、中肋が葉先までたっしている(f)。葉先付近を覗いて全縁で、中肋は葉面からやや突出していて(h)、上部背面には歯がついている(g)。一部の葉では、葉身細胞の背面に小さな乳頭が見られるが(j)、大部分の葉は平滑である。中肋は葉の基部で1/4〜1/7ほどの幅を持ち、翼部の細胞は著しく分化していて大きい(i, l)。
 葉身細胞は、翼部に続く部分ではやや大きめの矩形だが、葉の大部分では6〜9μmほどの方形〜矩形である(k)。翼部の細胞は、30〜40×10〜20μmほどの大きさで(l)、断面で1細胞層からなる(m)。中肋を横断面でみると、顕著なガイドセルとステライドがみられる(n, o)。茎の表皮細胞は、薄膜で、中心束が見られる(p)。

 シッポゴケ科のシッポゴケ属まではすぐに判定できたが、その先で種名にまでたどり着くのに難儀した。というのは、たまたま塊からはずした茎数本には無性芽が着いていなかったからだ。図鑑にあるシッポゴケ属についての記述を片端から検討してみたが、どうにもしっくり来ない。
 念のために、塊をあらためてじっくり観察してみると、あちこちに小枝状の無性芽をつけた部分がみつかった(d, e)。最初の肉眼による形態観察で見落としていたらしい。これで、コカモジゴケとヒメカモジゴケに絞られた。観察結果を図鑑の記述などと比較していくと、ヒメカモジゴケとするのが妥当ではないかと思われた。