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[標本番号:No.246   採集日:2007/06/02   採集地:栃木県、日光市]
[和名:カサゴケモドキ   学名:Rhodobryum ontariense]
 
2007年6月8日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 6月の最初の週末、日光で岡山コケの会の撮影会が行われた。その折りに半日陰地の道の脇の石垣に、カサゴケ属のコケが疎らに着いていた(a)。大きさと葉の枚数などからカサゴケないしカサゴケモドキだろうと思った。
 5〜6個体ほどを採取してきたので、今朝はこれを観察してみた(b)。水に浸すと、再び元のように葉が大きく開いた(c)。直立茎は高さ1.5〜2cmで、先の方には40〜50枚の葉を傘のようにつけている。傘の部分は径15〜18mm、上部の葉は小さく、下部の葉ほど大きい。
 下部〜中部の葉は、長さ6〜8mm、倒卵形で、葉頂は狭く尖り、葉の中程から基部にかけての縁は強く反曲している(e, f)。葉の上半部には縁に単生の歯がある(f, g)。中肋は葉頂に達している。茎の頂部についた葉は、長さ3〜4mmで幅がやや狭い。葉縁の様子や、上半部に歯があること、中肋の様子など、他の葉と同様だ。
 葉身細胞は、扁平な六角形で、葉の基部近くでは大きく、葉先や葉縁ではやや小さい。葉の中央部では長さ60〜85μm(h)、下部では長さ80〜120μm(i)、上部では40〜70μm(g)。葉の横断面を下部、中部、上部と数ヶ所で切ってみた(j, k)。どの場所でも、ステライドはほとんど見られない。二次茎の横断面をみると、外周を褐色の仮根が取り巻き、茎の表皮は厚壁の小さな細胞からなっている(l)。中心束はあるようだが、はっきり捉えられなかった。

 とりあえず、カサゴケモドキ Rhodobryum ontariense としたが、ひとつ疑問がある。葉身細胞の大きさである。保育社や平凡社の図鑑では、カサゴケモドキの葉身細胞の長さを、30〜50μm、オオカサゴケのそれを65〜120μm(保育社)あるいは100〜120μm(平凡社)と書かれている。両者ともカサゴケの葉身細胞のサイズには触れていない。いっぽう、Moss Flora of Japanでは、R. roseum (カサゴケ)の葉身細胞の長さを、85〜125μm(中央)、100〜125μm(下部)と記されている(p.490)。
 しかし、今回観察したものは、これらのいずれとも異なっている。カサゴケ属の場合、細胞の大きさには変異が大きいのだろうか。あるいは、これはカサゴケとすべきだろうか。あるいは、カサゴケやカサゴケモドキなどの変種ないし品種とするのが適切なのだろうか。

[修正と補足:2007.6.8. pm5:00]
 識者の方からご教示いただいたことによれば、カサゴケとカサゴケモドキは、研究者によっては同一種として、分ける理由がないという。また、Rhodobryumという属を認めない考え方もあるようだ。さらに、保育社や平凡社の図鑑でカサゴケモドキの「葉身細胞は...長さ30−50μm」という記述には多くの人が疑問を感じているようだ。
 Rhodobryum roseum (カサゴケ) と R. ontariense (カサゴケモドキ) をシノニムと考えれば、ここでの名称は、どちらをとってもよいことになろう。現時点では、カサゴケモドキ Rhodobryum ontariense のままとしておこう。