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[標本番号:No.264   採集日:2007/06/16   採集地:埼玉県、秩父市]
[和名:フジノマンネングサ   学名:Pleuroziopsis ruthenica]
 
2007年6月20日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先週の土曜日、奥秩父の旧荒川村に位置する大血川西谷と東谷(東大演習林)を歩いた。ふと見ると、道ばたをはじめ、斜面一面にコウヤノマンネングサ科のコケが群生していた(a, b)。過去に何度かであっているコウヤノマンネングサやフロウソウとはやや違う(c)。
 背丈はコウヤノマンネングサとほぼ同じくらいだが、細かく枝分かれしていて、全体に柔らかい感じで、枝先はとても細い(d, e)。一本掘り出してみると、一次茎が根茎をなして地下で繋がっていた(f)。この日初めての大型蘚類だった。多分フジノマンネングサだろうと思った。
 少していねいに観察してみることにした。立ち上がった二次茎は高さ6〜10cm、何回か羽状に枝分かれして、樹状をなしている。コウヤノマンネングサと比較すると、分枝が多く、細い茎では、幅0.5mmほどしかない。途中の枝と先端の枝とでは、葉の大きさが倍は違う。
 二次茎には鱗片状に葉がつく。茎葉は広卵形で全縁、長さ2.5〜4mm、葉頂が小さく突出している。中肋は弱く葉長の4/5あたりで消え、葉の基部は褐色で暗い(g, h)。葉身細胞はウジ虫状で、葉の上部〜中部では長さ45〜65μm、葉の下部では長さ80〜110μm(i)。
 枝の位置によって、そこにつく葉の大きさと形状には大きな変異がある。中程の枝につく葉は長さ0.5〜1mm、卵状披針形で、先端が尖り、葉縁には歯がある(j)。中肋は強く葉長の5/6ほどに達し、先端には鋭い牙歯がある(k)。葉には縦シワがあり、縁はしばしば内側にに折れ曲がる。葉身細胞は茎葉と同じくウジ虫状で、長さ30〜60μm、平滑である。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 葉、茎・枝の横断面をいくつか切りだしてみた。鱗片状につく茎葉の基部は、2細胞層からなっている(m, o)。中程から上部は1細胞層(n)。茎葉の基部が暗いのは、単一層ではなく複数層の細胞から構成されているからだろうか。枝葉の細胞は基部でも1細胞層である(p〜r)。
 二次茎と枝の横断面を切りだしてみた。茎(s〜u)の表皮細胞の外側には、仮根だけではなく、1細胞〜数細胞の高さの褐色の細胞が柵状に並んでいる。一方、枝(v〜x)では表皮細胞の外側に、仮根は無く、2〜4細胞の柵が見られる。どこで切っても似たように位置に柵があることから、これらは枝表皮の周囲を縦に薄板状に連なっているのだろう。

 保育社の図鑑では、フジノマンネングサ属はコウヤノマンネングサ科となっていて、科の検索表をみると、小枝表面に薄板状の組織があればフジノマンネングサ属、薄板状の組織がなく毛葉があればコウヤノマンネングサ属となっている。
 平凡社の図鑑では、フジノマンネングサ科はコウヤノマンネングサ科から独立し、わが国では1科1属1種が知られているとされるから、このサンプルはフジノマンネングサとしてよいだろう。なお、薄板状の組織は大きな枝よりも小さな枝で顕著に見られた。また、手元の図鑑類には、茎葉の葉身細胞長をきちんと記したものがなかった。