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[標本番号:No.265   採集日:2007/06/16   採集地:埼玉県、秩父市]
[和名:サワラゴケ   学名:Neotrichocolea bissetii]
 
2007年6月21日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 奥秩父大血川でフジノマンネングサの群落のなかに、ちょっと異質なコケが出ていた(a)。シノブゴケ科のコケにカビが生えたような印象だった。岩についたコケはふんわりしたマット状で、白緑色〜褐色を帯びていた。規則的に数回羽状に分枝し、葉の表面には白毛が密生しているように見えた(b, c)。仮根は基部にのみ見られ、全体は岩から斜上に立ち上がっていた。
 茎は8〜15cmにも及び、葉はやや重なり合って茎に対して横につき、3〜4裂し葉の縁は長い毛状をしている(d〜g)。腹片はなく、背片とよく似た腹葉がある(i, j)。ルーペで観察するまでは、苔類とは思えなかった。葉身細胞にはトリゴンはほとんどなく、楕円形の油体が1細胞あたり5〜15ほどみられる(h, k)。枝先には、長毛を帯び棍棒状をした、花被あるいはカリプトラのようなものがついている(l)。資料を頂いたのだが、これがカリプトラだ、との指摘はまだできない。

 どうやらムクムクゴケ科の苔類らしい。葉にはこれといった明瞭な袋状の構造はみられないから、ムクムクゴケ属となる。日本産は1属1種とされるから、これはムクムクゴケ Trichocolea tomentella ということになる。

[修正と補足:2007.06.28]
 先日富士山採取したコケを検討していて気づいたので訂正しておこう。この苔類はムクムクゴケではなく、サワラゴケ Neotrichocolea bissetii のようだ。まず、全体的な姿だが、ムクムクゴケはこれほど大きくはならないようだ。平凡社図鑑によれば、長さ2〜数cm、とある。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
 また、「葉身細胞は矩形」となっているが、あらためて再確認してみると、矩形とは言い難い。さらに、葉の背面は長毛に被われ(m)、枝葉の最腹側の裂片が袋状となっている(n)。ということは、これはムクムクゴケ科ではなく、サワラゴケ科の苔類ということになる。さらに茎頂にある針状の毛に被われた器官(l)は、シーロカウレといわれる構造の可能性が高い。
 サワラゴケ科には、イヌムクムクゴケもあるが、これは葉の背面が平滑で、すべての葉の最腹側の裂片がつねに袋状となるとされる。したがって、これはサワラゴケとするのが適切だろう。