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[標本番号:No.256   採集日:2007/06/09   採集地:栃木県、日光市]
[和名:オオスギゴケモドキ   学名:Polytrichum formosum var. densifolium]
 
2007年7月19日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 日光でしばしば出会うのだが、きちんと調べていない大型のスギゴケがある(a)。先月初めに採取したものがあるので、これを検討してみた。ウマスギゴケかオオスギゴケだろうと考えていたのだが、どうもそうではなさそうだ。
 茎は長さ8〜12cmで、ほとんど枝分かれせず、乾燥しても葉が縮れることなく茎に接着する(b)。葉は長さ7〜11mm、葉鞘部は卵形で、線状披針形に伸び、先端は鋭頭で、葉縁と中肋上部背面には大きな歯がある。葉身細胞は類円形〜方形で、8〜12μm、翼部は矩形の大型細胞からなり、長さ40〜60μm、幅10〜12μm、葉縁の歯はおおむね単一の細胞からなる(d)。
 葉の横断面を何ヵ所かで切りだしてみた(e)。薄板の高さは4〜5細胞で、端細胞は横断面でみて、横広で扇形のものが主で、多くは上壁は平らである(f)。しかし、わずかではあるが、卵形の端細胞もある。上面が凹面のものはほとんどない。
 薄板を側面から見るために、薄板をバラして観察してみた。薄板上面は平らではなく、わずかに凸凹している(g)。念のために、葉の縁近くや、中肋上の薄板も別個にみた(h)。念のために茎の断面も確認した(i)。
 朔を多数つけていたので、帽をとり、蓋をとって、最後に口膜の部分をみた。朔には5つの稜があり、基部がくびれている(j)。

 朔は明瞭な稜をもった角柱状で、帽は白毛状、葉縁には鋭い歯、乾燥すると葉が茎に接着状態となることから、スギゴケ属 Polytrichum であることは間違いない。薄板の端細胞が横断面で凹形ではなく、鞘部の細胞が短いから、ウマスギゴケではない。葉身の薄板がない部分の幅は、7〜9細胞からなり、葉鞘中部の細胞の縦横比は4〜6倍(d)、横断面で薄板の端細胞は縦長の卵形ではないから(f)、オオスギゴケではない。
 残る候補は、ホンスギゴケ P. longisetum、オオスギゴケモドキ P. formosum var. densifolium、エゾスギゴケ P. ohioense となる。ホンスギゴケにしては大きく、葉の鞘部の形が異なるように思える。エゾスギゴケにしては、薄板上面の細胞壁の厚みが不足気味で、サイズも大きい。とりあえず、オオスギゴケモドキとして扱っておくことにした。