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[標本番号:No.255   採集日:2007/06/08   採集地:東京都、大田区]
[和名:ホソウリゴケ   学名:Brachymenium exile]
 
2007年8月2日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 なかなか時間がとれず、長いこと放置されていたコケを観察した。採取したのは6月8日だから、かれこれ2ヶ月近くそのままになっていたわけだ。ホンモンジゴケのすぐ脇の墓石やその周辺の地面に小さなコケが群生していた(a, b)。
 現地でルーペでみたとき、センボンゴケ科の蘚類ではないかと思った。植物体は非常に小さく、高さ2〜4mm程度、乾燥しても葉は縮れず、茎に密着する(c)。湿ると葉は茎から開きだす(d)。茎を1本顕微鏡下に置いてみると、葉の中肋が先端から突出している(e)。
 葉を取り外してみた(f)。葉は卵形で、中央が窪み、長さは0.3〜0.7mm、中肋が先端に達し、わずかに突出(g)し、葉縁は全縁、目立った舷などはない(f, i)。中には、中肋が突出しない葉(h)、長卵形のものなどもある。
 葉身細胞は菱形〜六角形、あるいは矩形で、長さ20〜45μm、幅8〜15μm。葉の基部でも、特に目立った分化はない(i, j)。葉の横断面をみると、中肋部の表皮細胞は内部より大きく薄膜(k)、茎の横断面でみた表皮も薄膜の大きな細胞からなる(l)。

 当初センボンゴケ科とばかり思っていたのだが、葉の基部の細胞の分化がなく、中肋横断面の構造も違い、検索表をたどっても、該当する属がみあたらない。たどり着いたのは、ハリガネゴケ科のウリゴケ属だった。図鑑などにも「一見センボンゴケ科の仲間と見まちがえる」とある。
 ウリゴケ属に記された種をみると、ホソウリゴケ Brachymenium exile が近いように思える。ただ、以前観察してホソウリゴケと同定した標本No.19とは、植物体のサイズと、葉の形がやや異なる。No.19は茎の高さが5〜10mmで、葉の形は長卵形をしている。
 今日観察した標本No.255と先の標本No.19のどちらもホソウリゴケとするには疑問もあるが、とりあえず両者ともホソウリゴケとして扱い、変異の範囲にあるとみなしておこう。もし、いずれかだけがホソウリゴケとすれば、もう一方は何なのだろうか。