Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.245   採集日:2007/06/03   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ウチワチョウチンゴケ属   学名:Rhizomnium sp.]
 
2007年8月11日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 6月初め日光で採取した蘚類を1種、放置したまますっかり忘れていた。日陰の沢に横たわった腐木にチョウチンゴケ科の蘚がついていた(a, b)。写真(a)にある凾ヘすべて、混生していた全く別のこけのものだ。結果的に凾つけた個体はみあたらなかった。
 茎は長さ6〜10mmで、基部は少数の褐色をした仮根に被われる。よくみると、大仮根小仮根をもっているように、みえないでもない。
 葉は倒卵形〜うちわ形で、長さ3〜4mm、縁は全縁で、数層からなる舷が全周を取り巻き、葉頂は丸頭で、わずかに尖り、中肋は葉先に届かない(c〜f)。葉は乾くと強く巻縮し暗緑色となる。葉身細胞は多角形で、長径30〜60μm、厚角で丸みを帯びる(g, h)。
 葉の中程で横断面を切りだしてみた(i)。中肋に隣接する細胞が他の細胞より大きいわけではなく、葉縁の舷を構成する部分は複数細胞からなり厚くなっている(i, k)。葉の上部から下部までの適当な場所での中肋断面をみても、ステライドの発達は弱い(j)。茎の断面をみると、中心束がよく発達している(l)。

 ウチワチョウチンゴケ属まではよさそうである。平凡社の図鑑の検索表にあたってみた。大仮根と小仮根との別があると判断すると、セイタカチョウチンゴケということになる。しかし、植物体の大きさ、葉の大きさと葉身細胞の形・大きさなど、セイタカチョウチンゴケについての記述と観察結果とはかなりかけ離れている。
 次に、茎には大仮根しかないと判断すると、中肋が葉先に届かないから、ケチョウチンゴケとスジチョウチンゴケに到る分岐は排除される。もう一方の分岐をたどると、残るのは、ハットリチョウチンゴケとケナシチョウチンゴケということになる。
 検索表に従えば、ここから先は、4つの形質状態で二つにわかれる。この標本は、乾くと暗緑色になり、葉縁の舷は葉身部と同色で明瞭(f)、葉先の舷の細胞は紡錘形、葉身細胞は横長にはならない(g, h)。乾いたときの色味を軽い形質とみなすと、ハットリチョウチンゴケとなる。
 ハットリチョウチンゴケについての、記述と観察結果を照合してみる。植物体のサイズが小ぶりで葉も小さい。乾くと暗緑色となり強く巻縮するところも異なる。舷の色合いがかなり異なる。葉身細胞の形もサイズもまるで違う。

 中肋が葉先に届くかどうか、これを変化しやすい不安定な形質と考えると、ケチョウチンゴケとスジチョウチンゴケが残るので、念のために、種の記述部分にあたってみた。すると、観察結果に近いのはスジチョウチンゴケとなる。中肋が葉先まで届くかどうか、という形質状態は、固定的で安定した形質といえるのだろうか。
 限りなくスジチョウチンゴケ Rhizomnium striatulum に近いと考えられるが、標本No.186のウチワチョウチンゴケ属 Rhizomnium 同様、これもまた、現時点では種名の特定までには到らなかった。Rhizomnium sp. として扱っておくほかあるまい。