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[標本番号:No.294   採集日:2007/07/15   採集地:山形県、米沢市]
[和名:クモノスゴケモドキ   学名:Pallavicinia ambigua]
 
2007年8月15日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 山形・福島の県境に聳える吾妻連峰北面の温泉地で、沢沿いの岩壁に葉状体の苔類が広い範囲でマットを作っていた。葉状体は長さ2〜5cm、幅3〜5mm、黄緑色で1〜2回二叉状に分かれ、先の方は斜めに立ち上がっている(a, b)。明瞭な中肋部をもち、基部では翼部を持たず棍棒状となり、その部分にだけ仮根がみられる。棍棒状の部分は絡み合って横に走っている。
 翼部のへりには、数細胞長からなる刺状の毛が散生する(c, d)。葉状体を横断面できってみると、中肋部は厚い細胞層をなし、背腹に膨らみ、中心には厚膜の細胞の束がみられる(e, f)。中肋部に続く翼部は1層の細胞から成り、気室孔などは全く見られない。
 葉身細胞は六角形で、長径50〜80μm、細胞壁は薄く、トリゴンはない。中肋部近くでは大きく、周辺部では小さい。各細胞には、小粒子からなる紡錘形の油体が、8〜15個ほどある(g)。
 腹鱗片は「単細胞で、成長点直下以外はつぶれて消失する」と図鑑にある。成長点は葉状体の先端付近にあると考え、周辺を探してみたが、どれが腹鱗片なのかわからなかった。中肋部側面に類球形の構造物がまばら並んでいる(h, i)。杯状ないし円筒状の組織の内側に毛状のものが柵状に並んでいるようにみえる(j)。これは雄包膜と雄器だろうか。

 葉状体で中肋部が発達し、同化組織が分化せず、藍藻のコロニーもないので、ミズゼニゴケ科のクモノスゴケ属だろう。クモノスゴケ Pallavicinia subciliata とクモノスゴケモドキ P. ambigua が候補にのぼる。葉状体は匍匐せず斜上し、先端が細くならず、基部に明瞭に横に走る茎状の部分があることから、クモノスゴケモドキの確率が高い。