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[標本番号:No.293   採集日:2007/07/22   採集地:三重県、いなべ市]
[和名:ヤノネゴケ   学名:Bryhnia novae-angliae]
 
2007年8月17日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 三重県いなべ市で、頻繁に水をかぶる沢の転石に暗褐色の朔をつけた蘚が群生していた(a, b)。不規則に枝分かれし、地をはう茎から高さ2〜4cmの枝をだす。茎は長いものでは8cmほどある。枝はさらに支枝をだし、やや密に葉をつける。乾いても葉が縮れることはなく、湿っているときと姿はあまり変わらない(c)。
 地をはう茎の葉は茶褐色から透明で、土塊やケイ藻などがついて非常に汚れている。幅広い卵形〜三角形の基部をもち、先端は細く尖り、長さ1〜1.2mm、1本の中肋が葉の中程まで伸び、葉縁全体に小さな歯がある。やや立ち上がった二次茎の葉は卵形の基部で先端は漸次細くなり、中肋が葉の中程まで伸びる(d)。枝葉についても、茎葉とよく似ていて、中肋が葉長の2/3あたりまでのびる(e)。葉先の様子もほぼ茎葉と同様(f)。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 茎葉も枝葉も葉身細胞や翼部の様子などはほとんど同一なので、以下、枝葉について記述する。葉身細胞は、細長い六角形〜線形で、長さ30〜60μm、幅5〜8μm、ほとんど平滑だが(g)、中には背面上部に細胞端がわずかに突出したように見えるものもある。翼部はあまり分化していないが、他の部分よりやや大きめの矩形の細胞が並ぶ(h)。枝葉の横断面を見ると、中肋にはステライドはほとんどみられない(i)。茎の表皮細胞は厚壁の小さなものからなる(j)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 多数の朔をつけてはいたが、多くは蓋が取れてしまい、朔歯もかなり崩れていた(k)。それらのうちから、比較的崩れていないものを選んで湿〜乾の状態でながめてみた(l)。内外2重にそれぞれ16枚の朔歯をもっている。朔柄表面には、乳頭がみられるが、干からびたものでは、乳頭の有無ははっきりしない(m)。
 朔柄基部を包む雌苞葉は(n)、三角形の基部から長く伸びた先端をもつ。この部分の横断面をみると、中央に朔柄、その周りに植物体の一部(足?)、それを取り巻く雌苞葉がみえる(o)。茎の随所に雌苞葉に包まれた生殖器らしきものがある。この苞葉を取り外して造卵器をとりだしてみた(p, q)。まだ充分に成熟していない様子だ。

 アオギヌゴケ科までは間違いなさそうだ。アオギヌゴケ属あるいはヤノネゴケ属と思われる。観察結果をもとに、それぞれの属の検索表にあたってみると、アオギヌゴケ属のナガヒツジゴケ Brachythecium buchananii と、ヤノネゴケ属のヤノネゴケ Bryhnia novae-angliae が残る。
 この仲間は、過去何度か観察しているが、いまだに特徴を把握できない。特に、ヤノネゴケについては、いまだにフィールでは全く判定できない。過去に採集・同定したヤノネゴケやナガヒツジゴケと比較してみた。結果として、ナガヒツジゴケではなさそうだ。葉身細胞上端の突起がややあいまいだが、ヤノネゴケとしてよいのではないか。