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[標本番号:No.298   採集日:2007/08/22   採集地:山梨県、鳴沢村]
[和名:ムツデチョウチンゴケ   学名:Pseudobryum speciosum]
 
2007年8月24日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 お盆のマイカー規制が終わった直後に富士山に行ってきた。キノコ観察が目的だったが、コケについてもいくつか調べてみることにした。6月22日には標高1,000〜1,400m付近を歩いてみたが、今回は1,800〜2,300mあたりのコケをみることになった。
 標高1,800mあたりのやや薄暗いシラビソ林で、大木の根本に大きく美しい姿のチョウチンゴケ科の蘚が群落をなしていた(a, b)。背丈は8〜10cm、茎の先のほうに大型の葉を放射状につけ、長さ1cmに及ぶ大きな長楕円形の葉をつけている。乾くと葉が軽く巻縮する(c)。
 葉は横皺をもち全体が波打ったような姿をし、太い中肋が先端に達し、葉の縁には全周にわたって鋭い刺状の歯があり(f)、葉先は尖っている。葉の中肋は羽状に多数の側枝をだし(e)、葉の基部は長く下延している(d)。葉身細胞は細長い菱形〜六角形で、長さ50〜100μm、厚い壁をもち、細胞壁は随所にくびれがある(g, h)。
 太い中肋は、葉の横断面をみても顕著で、ステライドなどはみられない(i)。中肋の支枝含みの部分で切ると、中肋の表皮細胞が、葉の一細胞層部分に覆い被さるように伸びているのがわかる。茎の断面をみると、はっきりと3〜4層になっていて(j)、表皮細胞群はやや厚壁の小さな細胞からなり(k)、中心束の部分は色の濃い薄膜の小さな細胞が密集している(l)。

 非常に分かり易い大型蘚類だと思う。波打った大きな葉、葉の全周にわたる刺状の歯、羽状に側枝を伸ばす中肋、長く下延する葉の基部などは、ルーペでみるとすぐにわかる。顕微鏡で確認するまでもなく、すぐにムツデチョウチンゴケ Pseudobryum speciosum であると分かった。姿が非常に特徴的であり、数少ない分かり易いコケの一つだ。