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[標本番号:No.310   採集日:2007/08/25   採集地:長野県、富士見村]
[和名:ウロコミズゴケ   学名:Sphagnum squarrosum]
 
2007年9月21日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 入笠山の標高1,800m近辺の針葉樹林を流れる小川の畔に、ミズゴケの仲間が一面に群生していた(a, b)。周辺は湿地のようになっている。近寄ってよく見ると、枝葉が中程から大きく反り返って、まるでササクレだったようにみえる(c)。
 淡い緑色の植物体は、引き抜くと意外と大きくて、茎の長さは8〜15cm、赤褐色の柄は強靱で、太いところでは径1.0〜1.2mmにもなる(d, e)。枝は1ヵ所から3〜5本が束になってで、開出枝と下垂枝の長さは、ほぼ同じかごくわずかに下垂枝が長い(f)。
 茎葉と枝葉の長さはほぼ同じで、茎葉は舌状で、長さ1.5〜2.5mm、舷は葉の基部にのみあり狭い。葉の先は小さな鋸歯状となっているか、ササクレている(g〜j)。茎葉の透明細胞には薄い膜があり、サフラニンで染色すると明瞭にわかる(k)。茎の表皮には螺旋状の肥厚などはない(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 枝から葉をはずしてみた(m, n)。下垂枝の枝葉には反り返らないものもある。開出枝の枝葉は、長さ1.5〜2.8mm、基部は卵形で鞘状に枝を包み込み、中央部から先は急に細くなっ背側に強く反り返る。開出枝の枝葉の葉身細胞を確認した。枝葉背面の上部(o)と中央部(p)、同じく腹面の上部(q)と中央部(r)である。
 枝葉背面の透明細胞には大きな孔があり、腹面の透明細胞には上部から中程にかけて、縁の厚い孔がある。腹面中央部の下部では厚縁の孔は目立たず、偽孔のようなものがみられる(r)。枝の表皮細胞には何列かのレトルト細胞が見られる(s, t)。
 茎の横断面をみると、表皮細胞は2〜3層で孔はなく、その直下には5〜7層の褐色厚壁の小さな細胞がある。枝葉の横断面を色々な位置で切りだしてみた(v〜x)。葉緑細胞は樽型で背腹両面に開いていて、心持ち背面側に広く開く。

 ミズゴケの仲間は観察ポイントが多くて面倒だが、ひとつ一つ確実に押さえていくと、比較的楽に節までは落とせる。このミズゴケを現地でみたとき、枝葉が反り返ってササクレ状に見えることから、間違いなくウロコミズゴケだろうと思った。
 しかし、ウロコミズゴケのように見えて、実は別種というものがあるかもしれない。そう考えて、先入観にとらわれずに、基本に忠実に一通りの観察してみた。いくつかの検索表をたどると、いずれもウロコミズゴケ Sphagnum squarrosum にたどり着く。今回は、検索表をたどる過程を記述することはしなかったが、多数の観察ポイント毎に撮影した画像を詳細に並べてみた。