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[標本番号:No.302   採集日:2007/08/22   採集地:山梨県、鳴沢村]
[和名:ミヤマチリメンゴケ   学名:Hypnum plicatulum]
 
2007年10月17日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 8月に富士山に出かけたときに採取したコケがまだいくつか、未観察のまま放置されている。そのうちのひとつ、標高1,900m付近の腐木や岩についていた小型の蘚(a)を観察してみた。乾燥しても、姿はほとんど変わらない(b)。水没させると、広範囲に虫の糞のらしいものが多数ついている(c)。やや綺麗な状態の茎を使って観察することにした(d)。
 茎は這い、長さ3〜8cm、やや規則的に短い枝を左右に出す。さらに羽状に支枝を出す枝もあり、枝の長さはおおむね、3〜5mm、偏平気味に葉をつける。
 茎葉は長さ0.8〜1.6mm、狭い三角形〜卵形の葉身部から長く芒状に尖り、著しく鎌状に曲がり、基部はやや丸みを帯びる(e, g)。芒の部分と葉上部の縁には微歯がみられ、中肋は二叉して短いか、不明瞭である(g)。
 茎葉の葉身細胞は、葉身部中央付近では、線形で長さ30〜70μm、幅3〜4μm(i)、翼部の細胞はほとんど分化せず、薄膜で透明な細胞がみられる(j)。基部の細胞はやや短く幅は広い。
 枝葉は茎葉よりやや小型で、芒状の先端部は強く鎌形にまがり、葉身細胞や基部の様子などは、茎葉とほぼ同様である。茎葉と比較すると、葉の基部の丸みがやや弱い(f)。
 茎を横断面で切ってみると、表皮細胞は薄膜で大形の細胞からなり、中心束の発達は悪い(k)。枝の横断面では中心束はほとんど確認できない。枝の先端部で若い葉が集中している部分をまとめて切り、横断面を見た(l)。

 種名をミヤマチリメンゴケ Hypnum plicatulum としたが、まったく自信はない。観察結果を平凡社の図鑑にあてはめてみると、ハイゴケ科に落ちる。属への検索表をたどると、ハイゴケ属に落ちる。さらに種への検索表をたどると、茎の横断面でみた表皮組織から、かなり絞ることができる。平凡社図鑑からはミヤマチリメンゴケに落ちる。
 保育社図鑑にあたると、ミヤマチリメンゴケの他に、ハイサワラゴケモドキ H. subimponens という種が掲載されている。ハイゴケ属の検索表(p.251)によれば、ハイサワラゴケモドキは「中型。茎葉のつけねはあまりせまくならない。葉縁には小歯がある。朔は乾いてもしわよらない」とある。一方、ミヤマチリメンゴケについては、「小型。茎葉のつけねは心臓形。葉縁はほとんど全辺。朔は乾くと強くしわよる」とある。したがって、標本No.302がどちらかははっきりしない。
 念のために、Iwatsuki "New Catalog of the Mosses of Japan" を引くと、ハイサワラゴケモドキ H. subimponens については、[auct. non. Lesq.](誤用名の引用) とあり、[=H. subimponens ssp. ulophyllum](ヤマハイゴケ) となっている。したがって、ハイサワラゴケモドキについては検討しなくてもよさそうだ。平凡社図鑑によれば、ヤマハイゴケの中肋は「2本でときに葉長の1/3に達する」「枝葉は小型で幅が狭く、縁の歯も明瞭」とある。
 Noguchi "Moss Flora of Japan" で、H. plicatulum と H. subimponens ssp. ulopyllum の両者を読み比べてみると、本標本No.302は、H. plicatulum に近いように思える。なお、H. plicatulum の和名であるが、野口『日本産蘚類概説』では、ミヤマチリメンゴケではなく、ミヤマハイゴケとして掲載されている(p.260-261)。