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[標本番号:No.367   採集日:2007/10/28   採集地:東京都、青梅市]
[和名:ラセンゴケ   学名:Herpetineuron toccoae]
 
2007年11月8日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 去る10月28日に、奥多摩で行われた岡モス関東の観察会の折りに出会ったラセンゴケと思われる蘚類を数本持ち帰った。小さな沢沿いの民家近く(標高330m)で樹幹に付いていた(a, b)。一次茎は長さ5〜10cm。斜上する二次茎は、長さ1〜3cm、あまり分枝せず、密に葉をつけ(b)、先端が鞭状に伸びるものもあり、乾くと全体が丸く巻き込む(c)。茎や枝に毛葉はない。
 葉は乾燥すると、茎に密着するが(c)、湿ると大きく開出する(d)。葉は長さ1.8〜2.2mm、披針形で葉先は鋭く、葉縁上部には歯がある。中肋は太く明瞭で、葉頂付近まで伸び、葉先近くの部分はウネウネと蛇行する(e〜g)。
 葉身細胞は、葉の大半の箇所で方形〜六角形で、長さ4〜8μm、平滑であるが、腹側が弱くレンズ状に膨らむ(g〜i)。葉身細胞の並び方は中肋に対して直角ではなく、先端方向へ30度ほど傾いている。中肋は背側にステライドがあり、腹側にはガイドセルしかない(i)。枝の断面をみると、中心束が明瞭に分化し、表皮は厚膜の小さな細胞からなる(j)。翼部はほとんど分化しない。
 採取標本は雌株だったのか、枝先近くにいくつもの雌苞葉に包まれた造卵器がみられた(d, k, l)。雌苞葉は三角形で鞘状の基部をもち、先端は長く芒となって伸びている。葉身細胞も枝葉のそれとは異なり、菱形で長さ15〜20μmある。造卵器は一ヵ所に12〜14ついている。

 一次茎と二次茎の区別があり、中肋が葉の上部で著しく蛇行すること、枝先が鞭状に長く伸びるものがあること、乾燥すると枝全体が犬の尾のように丸まることなどから、ラセンゴケに間違いなさそうだ。朔をつけたものはなかったが、葉身細胞の並び方が非常に特徴的で興味深い。また、葉身細胞の表面は平滑とはいっても、よくよく見ると、マミラというほどではないにしても、腹側がゆるい凸状に膨らんだものが多い。