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[標本番号:No.366   採集日:2007/10/28   採集地:東京都、青梅市]
[和名:ツクシハリガネゴケ   学名:Rosulabryum billardieri]
 
2007年11月15日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 去る10月28日東京都青梅市で行われた岡モス関東主催の観察会に参加した。そのおりに、ハリガネゴケ属の蘚類を数本持ち帰った(c)。青梅線軍畑駅から数キロ離れた薄暗い杉植林地の沢沿いの林道脇(標高440m)の岩に出ていた(a, b)。肉眼的観察から、おそらくツクシハリガネゴケだろうということだった。はじめて出会う蘚類だった。
 採取標本は比較的小振りで、背丈15〜25mmで、茎の下部は密に仮根に被われ、上部に集中して葉をつけ、乾燥すると葉が捻れて茎に接着気味となる(c)。茎の先端を上部からみると、放射状に広がった葉の基部には、棒状の組織が密集し、中央部が暗くみえる(d)。
 葉は、長さ3〜4.5mm、倒卵形〜楕円形で、葉の上半部が最も幅広く、葉縁には舷があり、葉先の縁には微歯があり、中肋は葉頂から突出する(e, f)。葉の裏側の腋からは棒状の無性芽が多数でている(f)。葉の基部付近が暗くみえたのは、この無性芽のためだった(d)。
 葉身細胞は、葉上部から中央部では、菱形〜六角形で、長さ50〜70μm、幅10〜20μm(g, h)、葉基部では長い六角形で、長さ100〜180μm、幅25〜35μmあり(i)、いずれも薄膜で平滑である。葉の中肋横断面は特異な形をしている。ステライドは中肋中央部にあり、背面側には薄膜でやや大型の細胞が1層に並び、腹面側には大きな細胞が2層に並ぶ(j)。
 茎の横断面をみると、表皮も内部も薄膜の細胞からなり、表皮部分は小さな細胞であり、中心束のような構造がみられる(k)。無性芽を合焦位置をかえて見た。無性芽表面にはアバタ状の突起があり、隔壁は仮根ほどには斜傾していない(l)。

 保育社や平凡社の図鑑には「本属としては大形で、茎はときに長さ6cmに達し」とある。現地で見た個体の中には、比較的大型で茎が4〜5cmほどに達するものもあった。大きな個体は流水のすぐ脇の岩についていた。林道脇の岩壁や岩から出ていた個体は、いずれも小さく、本標本と同じくらいのものが多かった。
 図鑑の記述を読むと、ほぼ観察結果と一致する。ツクシハリガネゴケに間違いなさそうだ。なお、学名は平凡社図鑑では Bryum billardieri、保育社図鑑では Bryum truncorum となっているが、Iwatsuki "New Catalog of the Mosses of Japan" に従って、Rosulabryum billardieri を採用した。