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[標本番号:No.357   採集日:2007/10/12   採集地:奈良県、上北山村]
[和名:チョウチンハリガネゴケ   学名:Pohlia wahlenbergii]
 
2007年11月22日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 10月12日に大台ヶ原に向かう林道の、道脇の薄暗い土の斜面に柔らかい黄緑色の蘚類がついていた(a〜c)。枝分かれは少なく、葉は乾いてもあまり縮れず、茎は赤褐色で、長さ4〜6cm、葉を含めた幅は2mm前後、やや疎に葉をつける(d)。茎に毛葉はない。
 葉は披針形〜卵状披針形で、長さ1.8〜2.2mm、葉上部の縁に微歯があり、葉先は軽く捻れたものが多く、中部以下で弱く反曲し、舷はなく、葉基部はやや下延し、中肋が葉頂近くまで達する(e〜g)。標本個体には葉腋に無性芽をつけたものは一つもない。
 葉身細胞は、線状多角形〜線形で、葉の中部では長さ65〜100μm、幅10〜16μm(i)、葉上部では、長さ40〜75μm(h)。葉の基部には他と区別されるような翼部は発達せず、葉身細胞は線状多角形で、長さ40〜70μm、幅10〜16μmで(j)、どの部分でも平滑である。
 葉の横断面をみると、中肋部にステライドはなく、中肋部腹側の細胞は、葉身細胞とほぼ同じような形をしている(k)。茎の横断面をみると、全体が五角形〜六角形をしていて、中心束があり、表皮細胞は小さく、わずかに厚めの壁をもっている(l)。

 ハリガネゴケ科の蘚類であることは間違いなさそうだ。採取標本では生殖器官をつけていないので、正確な同定は非常に困難と思われるが、配偶体が光沢をもち、細長くて弱々しく、葉が披針形で、乾いても縮れないなどから、ヘチマゴケ属 Pohlia だろうと推定される。
 属から種への検索表をみると、無性芽を持たないほうの枝をたどることになる。ここでも胞子体の形態がキーとなっている。やむなく、ここでも配偶体の形態だけから、矛盾しない方の枝をたどることにした。配偶体には金属光沢はなく、中肋は葉先から突出せず、葉頂にも達しない、葉縁が強く背方に巻くこともないから、候補種はかなり絞られる。
 候補に残ったのは、チョウチンハリガネゴケ P. wahlenbergii となる。この種についての説明を保育社図鑑と平凡社図鑑で読むと、観察結果と概ね合致する。Noguchi "Moss Flora of Japan" を参照すると、大きな矛盾点もなさそうだ。凾つけていないので信頼性は低いが、現時点では、とりあえずチョウチンハリガネゴケとして扱っておくことにする。