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[標本番号:No.364   採集日:2007/10/28   採集地:東京都、青梅市]
[和名:アオシノブゴケ   学名:Thuidium pristocalyx]
 
2007年12月8日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 10月28日に行われた岡モス関東の観察会の折りに、標高340mあたりの湿った石垣や腐木上についていた繊細なコケを採集した(a)。見るからにシノブゴケ科という形で、現地ではアオシノブゴケの可能性が高いと思い、同意見の参加者が多かった。
 植物体は小さく繊細で、不規則に数回羽根状に分枝し、一次茎は赤褐色を帯び、ルーペで見ても毛葉は非常に少ない(b)。枝の長さは3〜7mm。二次茎をみても、茎葉と枝葉は大きさがかなり違うが、形はよく似ている(c, d)。茎葉も枝葉も、ともに葉は卵形で、葉先は細く尖ることはなく、中肋は葉先には届かず、葉長の3/4〜4/5までしかない(e)。
 茎葉の葉身細胞は、菱形〜長菱形で、長さは先端付近では10〜15μm(f)、中央部から基部では15〜30μmで(g)、いずれも表面には先端が金平糖状に3〜4に分かれたパピラがある。中肋にステライドは無く、葉の横断面をみても、先が分かれた乳頭は明瞭である(g)。
 枝葉の葉身細胞も、茎葉のそれとほぼ同じである。焦点の位置によって乳頭は明瞭に捉えられる。枝葉の横断面をみても、茎葉のそれと同様、先の分かれた乳頭がはっきり分かる(j)。
 一次茎と枝の横断面をみると、いずれも中心束は不明瞭で、表皮細胞は厚壁で小さい。毛葉は非常に少なく、二次茎の枝ではほとんどみられない。一次茎や二次茎に疎らに見られるが、方形〜矩形の細胞の腔上に一つのパピラが見られる(l)。

 先入観を抜きに、シノブゴケ属の検索表をたどってみた。茎葉の先は透明尖となっていないから、ヒメシノブゴケではない。茎葉の先端は鈍頭で、葉身細胞には複数のパピラがあるから、アオシノブゴケとオオアオシノブゴケが残る。オオアオシノブゴケは、多くの毛葉をもち、パピラは小さくまばらであるとされるから、排除できる。現地での予測通りアオシノブゴケとしてよさそうだ。

 昨年12月に東京都あきる野市で採集しアオシノブゴケと同定した標本No.57は、あらためてよく見ると、オオアオシノブゴケとするのが妥当かもしれない。というのは、本標本と比較すると、(1) 二次茎の枝が5〜12mmと長い。(2) 毛葉が密に茎を覆っている。(3) 茎葉、枝葉ともにパピラが小さい。この両者はともに雌雄異株であり、よく似た蘚類らしい。
 図鑑によると、形態的に決定的な差異としては、内雌苞葉の上部の縁に歯があり毛がない(アオシノブゴケ)か、内雌苞葉の中部の縁に長毛がある(オオアオシノブゴケ)という。また、発生環境だが、アオシノブゴケは山地の木の根本や腐木上に、オオアオシノブゴケは湿地の湿岩上に生えるとされる。
 ただ、標本No.57には凾つけたものがなく、内雌苞葉の形態を確認することができない。毛葉の密度だけから、これをアオシノブゴケ T. pristocalyx(= T. glaucinum) からオオアオシノブゴケ T. subglaucinum に修正してよいのだろうか。とりあえず、標本No.57に [修正と補足] を加えておくことにした。