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[標本番号:No.340   採集日:2007/09/23   採集地:群馬県、水上町]
[和名:ウロコミズゴケ   学名:Sphagnum squarrosum]
 
2007年12月30日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 夏に長野県や群馬県、山梨県などのいくつもの場所で、ミズゴケの仲間を採取したが、なかなか観察の時間がとれずに、そのままとなっていた。ようやく、今日になって2点ほど観察することができた。観察結果は、両者ともウロコミズゴケ Sphagnum squarrosum だった。ここでは、9月に群馬県水上町の武尊山北面にある湿原に出ていたものを取りあげた。

 針葉樹林に囲まれた標高1,520mほどの位置にある湿原に群生していた(a)。茎は、白緑色〜淡黄色で、長さ12〜15cm、径1.0〜1.2mm(b, c)、表皮細胞に螺旋状肥厚はなく、表面に穴などはない(i)。茎葉は、長さ2.0〜2.3mm、舌形で葉先は丸く、先端部はささくれ、葉縁の舷は基部に3〜4列あり、葉の中程から先には舷はない(f〜h)。
 茎からは4〜5本の枝が束となって出て、うち1〜2本が下垂枝、3〜4本が開出枝で、下垂枝と開出枝の長さに大きな差異はない(d)。開出枝の葉は、長さ1.2〜2.0mm、広卵形の基部が鞘状に枝を包み、中程から先は急に細くなって反曲するが(j〜l)、下垂枝の葉はほとんど反曲しない。定石にしたがって、一本の茎を、赤インクに水没させて着色したものを観察した(e)。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 枝葉の先は尖っているが先端は切頭となり(m)、背面の透明細胞には大きな穴があり、葉先付近(n)よりも中央部(o)で顕著である。腹面の透明細胞では、縁の厚い穴や偽孔がみられる(p, q)。偽孔や穴の様子は、赤インクないしサフラニンで染色したものを、顕微鏡の合焦位置を変えながら観察しないと、正確な判断を誤るおそれがある。(r)。
 枝の表皮や横断面をみると、1層の薄膜で大きな表皮細胞に囲まれ、一部に大形のレトルト細胞もみられる(s, t)。一方、茎の横断面をみると、表皮は、3〜4層の大形薄膜細胞からなる(u)。枝葉の横断面をいくつかの場所で見た(v〜x)。横断面でみると、葉緑細胞は楕円形〜樽形で、背腹両面に開いているが、心持ち背面側に広く開いている。

 観察結果をもとに検索表にあたると、迷うことなくウロコミズゴケ節 Sect. Squarroa に落ちる。保育社の図鑑にはウロコミズゴケ1種だけが掲載されている。平凡社図鑑では、詳細な解説はないが、検索表にのみホソミズゴケ Sphagnum teres が掲載されている。
 それによると、ホソミズゴケは、ウロコミズゴケに比較して、植物体はやや小形、枝葉の反曲の程度が弱いとされる。さらに、顕微鏡的所見として、開出枝の表皮レトルト細胞列が少なく、枝葉の腹面の穴の縁が肥厚せず、背面の穴の縁がしばしば肥厚する、とある。
 滝田『北海道のおけるミズゴケの分布およびその変異について』(1999)では、明瞭に「枝葉背面中央の透明細胞先端に貫通する大きな楕円形の孔があるのはこの種の特徴で、先端以外にも楕円形や円形の孔がある場合が多い」とある。
 一度ホソミズゴケに出会ってみたいと思って、各地でウロコミズゴケ節を採取してみたが、いずれもウロコミズゴケだった。本標本も、現地で推定したとおり、ウロコミズゴケのようだ。