HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.374   採集日:2007/12/22   採集地:栃木県、佐野市]
[和名:ヤマトクラマゴケモドキ   学名:Porella japonica]
 
2008年1月17日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 昨年12月に、佐野市の標高100mほどの鍾乳洞の入口付近で、石灰岩についていた一群のタイ類を持ち帰った(a, b)。群の大部分はクラマゴケモドキ属だったが、ヤマトケビラゴケ(「あ〜ぁ分別地獄」標本No.375)や蘚類が、少数だが複雑に絡み合っていた。分別を終えたまま放置してあったが、今朝はこのクラマゴケモドキ属を観察した。
 茎は長さ3〜5cm、葉を含めた幅は2〜3mm、不規則に羽根状に分枝して、背片は重なりあって倒瓦状につき、茎を覆っている(c 右側、d, e)。背片は、長さ0.6〜1mm、卵形で円頭、多くは全縁だが、1〜3歯をもった葉もあり、基部は広く張り出して茎を覆う。腹片は、ほぼ茎に平行に付き、長舌形で、背片に比べて非常に小さく、全縁または幾つか歯をもつ(e〜g)。キールは非常に狭い。腹葉は卵形で、茎幅よりやや広く、多くは先端に2つの歯をもつ(f, i)。枝の途中からでる雄花や雌花の苞葉には多くの歯がある(f)。
 葉身細胞は、角の丸い多角形で、長さ15〜30μm、やや厚膜で、トリゴンは大きく、米粒型の油体を各細胞に10〜20もつ(h)。腹葉の葉身細胞は、長さ15〜25μm(j)。

 背片が倒瓦状に重なり、小さな腹片は舌形で茎に平行に付き、腹葉をもつことから、クラマゴケモドキ属 Porella であることは、現地ですぐに分かった。この仲間は、茎葉体のタイ類の中では、顕微鏡で観察せずとも肉眼的所見だけで楽に同定できる属であるとされる。
 ルーペでみたところ、ヤマトクラマゴケモドキ P. japonica だろうと推定された。念のために、葉身細胞や油体などの観察もしてみた。観察結果に基づいて、保育社の図鑑の検索表にあたるとヤマトクラマゴケモドキに落ちる。平凡社図鑑の検索表にあたるには、やや詳細な観察が必要とされるが、種の解説は観察結果とほぼ合致する。
 井上『続・日本産苔類図鑑』には「この種類は非常に変化しやすい。特に葉や腹葉のへりの歯の状態は著しく変化し、全く全縁のものから、多数の毛状の歯つものまでいろいろある」と記されている(p.60)。同図鑑の図では、多くの歯をもった葉が描かれている。