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[標本番号:No.381   採集日:2008/03/01   採集地:千葉県、長柄町]
[和名:コハネゴケ   学名:Plagiochila sciophila]
 
2008年3月21日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 1週間ぶりにコケを観察する時間ができたので、3月1日に樹幹に生育していたコケを観察した。房総半島内部に位置する丘陵地帯(標高100mほど)で、樹幹の基部から胸高あたりまで、黄緑色のタイ類がゆるやかなマットを作っていた(a)。よくみると、葉が先端と下部にだけわずかに残り、茎の大部分では落ちている(b, c)。茎表面には葉の跡が斜線状に残っている(d)。
 茎は長さ2〜3cm、葉がほとんど落ちて棒状である。葉は部分的に残る(e)。葉は卵形で、瓦状につき、ほぼ全縁で葉先から腹縁にかけて不規則な歯があり、背縁はわずかに曲がり、基部は茎に下延している(e)。腹葉は非常に小さく痕跡的で、長毛状となる(f)。
 完全な姿の葉がほとんど得られず、断片的なものばかりで、サイズは大小数倍の差があり、長さ0.5〜2mm(g)。長さ2mmほどの大きな葉でも、0.5mm程度の小さな葉でも、葉身細胞の大きさは18〜30μmで、葉の大小にかかわらず、ほぼ同じである(h〜j)。
 若い小さな葉の葉身細胞は、多角形でトリゴンはほとんどないが(j)、大きな千切れ落ちた葉では、小さなトリゴンが見られる(j)。いずれも、球形〜楕円形をした、微粒の集合体のような形の油球が、各細胞に5〜15個ほどある。葉の横断面(k)と茎の横断面をみた。茎の表皮細胞は、髄細胞に比較すると、やや小さく壁が厚い(l)。

 花被をつけたものがほとんどなく、ほとんどの茎から葉が脱落し、棒状となって斜上しているので、一瞬採取を躊躇した。以前は、こういったコケは持ち帰っても、属への手がかりが掴めないと感じていたので、持ち帰ることはなかった。この1年半の間、いろいろな蘚苔類をナメクジの歩みでじっくりと観察してきたので、属までは分かるだろうと思い、持ち帰ってきた。
 茎の分枝はハネゴケ型、葉は瓦状で、茎に斜め互生につき、複葉は痕跡的などから、ハネゴケ科であろうと見当をつけた。属への検索表をたどると、茎が斜上して横断面で皮層細胞は髄細胞より小さく肥厚していることから、ハネゴケ属と考えた。種への検索表をたどると、コハネゴケ Plagiochila sciophila に落ちた。種の解説を読むと、観察結果は概ね合致する。