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[標本番号:No.385   採集日:2008/03/01   採集地:千葉県、君津市]
[和名:チャボヒラゴケ   学名:Neckera humilis]
 
2008年4月1日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月1日に千葉県君津市の久留里城址周辺(alt 100〜140m)で採取した蘚類が手元にいくつも放置状態で残っている。そのうちの一つ、日なたの樹幹についていたコケを観察した(a, b)。一次茎ははい、二次茎は不規則な羽根状に立ち上がって、密に葉をつける(c, d)。葉には著しい横シワがあり(e, h)、苞葉に半ば沈生したように多数の朔をつけている(d, e)。
 一次茎はほとんど褐色で、枯れたような状態となり、茎葉も落ちている。二次茎は長さ3〜8cm、葉を密につけた6〜12mm長の枝を出す(e)。枝には、葉が8列にやや扁平気味につく。葉は長さ1.8〜2.3mmで、広卵形で上半部にゆるやかな横シワがあり全縁、先端は広く尖る(f〜h)。1本の弱い中肋が葉長の1/2〜3/4まで伸びる。側面の葉はやや非相称だが、背面や腹面の葉はほぼ相称。乾燥しても、葉は枝に密着することはない。
 枝葉の葉身細胞は、葉先近くでは菱形で長さ10〜15μm(i)、葉の中央部では長楕円形で長さ35〜55μm(j)、葉の基部から翼部では矩形で長さ8〜15μm(k)、いずれも表面は平滑で、細胞壁が厚く、葉の中央部では壁に弱いくびれがみられる(j)。
 朔柄は非常に短く、苞葉の中に埋もれ、朔の部分がわずかに覗いている(l〜n)。帽はほとんど外れてしまいはっきりしない。蓋は嘴状に尖っている。苞葉は長卵形で先が急に細くなる(o)。小さな内雌苞葉は披針形で先端がさらに細くなる(n)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 朔歯はやや赤みを帯びた線状披針形で、基部には横条が目立ち、透明な先端は二つに割れ、全体に微細な乳頭がある(p〜r)。内外朔歯の様子や、間毛などはいまひとつはっきりと捉えられなかった。胞子は球形で、径18〜22μm。
 念のために、葉の横断面を数ヶ所で切り出してみた(s〜v)。中肋は基部では3層、中程では2層となり、幅もしだいに狭くなる。枝や茎の横断面をみると、厚壁の小さな細胞が表皮をなし、中心束はみられない(w)。何本かの朔柄とそれらを包む外雌苞葉を一緒に切り出してみた(x)。

 茎が不規則に広がり、葉を密に扁平につけ、葉に著しい横シワがあり、中肋が1本あることなどから、ヒラゴケ科 Neckeraceae の蘚類だろうと見当をつけた。さらに葉身細胞は平滑で、朔が雌苞葉に深く沈むことからヒラゴケ属 Neckera だろうと思う。
 ヒラゴケ属の検索表をたどると、エゾヒラゴケ N. yezoana とチャボヒラゴケ N. humilis が候補に残る。図鑑の説明によると、両者は、葉の形状や葉身細胞の形が異なるとあるが、明瞭な境界をひくことが難しい。エゾヒラゴケとすると、葉身細胞がやや小さく、朔が雌苞葉に完全には沈生していない。また、雌苞葉の先端がさほど細長く突出しているとは言い難い。
 どちらかといえば、チャボヒラゴケとするのが妥当と思われた。図鑑の説明では、両者とも「谷間の樹上に生える」とあるが、本標本は、乾燥気味で陽当たりのよい尾根スジの樹木の基部に密集していた。また、葉がひどく汚れており、混雑物のない葉を得ることができなかった。