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[標本番号:No.416   採集日:2008/03/29   採集地:栃木県、佐野市]
[和名:コスギバゴケ   学名:Kurzia makinoana]
 
2008年4月16日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 3月29日に栃木県の山中 [alt 260m] で(a)、川岸の湿った壁面(b)から採取した蘚類を観察し始めたところ、スギナを小さくしたような姿の微細な苔類が紛れていた(c)。そこで蘚類の観察をいったん中断して、紛れ込んでいる苔類を、実体鏡の下で選り分けた。数時間の悪戦苦闘の結果、長さ4〜10mmほどの苔類が数十個体ほど得られた。
 件の苔類は、現地で全く気づかなかったために、どちらが背面なのか腹面なのかは全く分からない。不規則な羽根状に数回分枝し、若い茎では葉が密に、成長した茎では葉が疎についている(e)。ルーペや実体鏡の低倍率でみると、葉はスギナの枝のようだ。茎の先が鞭枝状になったものもある。仮根をつけた個体はほとんどなかった(d)。
 倍率を上げてみると、スギナの枝のようにみえた葉は、茎に対して横につき、深く3〜4裂し、各裂辺は基部で2〜3細胞の幅を持っている(f〜h)。主たる葉ばかりではなく、腹葉と思われるものがあり、やや小形で、葉の様子は主葉とほぼ同じである。
 葉(j)、腹葉(k)、若い葉(l)を外してみた。葉身細胞は、丸味を帯びた方形〜多角形で、長さ12〜20μm、細胞壁は厚く、トリゴンは不明瞭ではっきりしない。葉の基部の細胞では、小さな球状〜楕円状の油体が、1細胞に3〜5個あるが、全く油体のみられない細胞もある。裂辺の先はいずれも、1細胞の列となる(j〜l)。花被や雌苞葉、雄苞葉などは見つからなかった。

 非常に小さく、特異な形状をしていることから、比較的楽にコスギバゴケ Kurzia makinoana だろうと見当がついた。いくつかの図鑑で、コスギバゴケについての解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。スギやヒノキの樹幹に着生する場合は、しばしば純群落の大きなマットを作ることがあるという。また、湿土上や腐植土などでは、一般に他の蘚類に混生することが多い、ともある。標本を採取した場所は、落葉広葉樹林の沢沿いの湿土の壁であった。

 主葉も腹葉も、深く裂けているためか(h)、ルーペや実体鏡でみると、まるでスギナを思わせられた。顕微鏡でみても、合焦位置をかえながら観察しないと、葉の全体像が掴みにくかった。これを一枚の画像で表現するのは難しい(g)。かろうじて深く裂けた葉が茎についた姿を捉えられた(i)。先端が非常に細いピンセットを使っても、茎から葉を取り外すのにひどく難儀した。