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[標本番号:No.401   採集日:2008/03/29   採集地:栃木県、佐野市]
[和名:チョウセンスナゴケ   学名:Racomitrium carinatum]
 
2008年4月25日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月末、栃木県佐野市の標高260m付近で、川原の石に着生していたコケを持ち帰った(a, b)。今朝はこのコケを観察した。岩をはう茎は長さ3〜6cm、立ち上がった枝は、長さ1〜2cm、湿時は葉が反り返り広く展開するが、乾燥すると葉は茎に密着する(c)。湿時ルーペでみると葉の上半部は竜骨状に広がる(d)。写真(b)に朔をつけた個体がみえるが、これは細長い葉を持ち、乾燥すると葉が巻縮する全く別の蘚類だった(No.431)。採取標本に少量混じっていた。
 葉は、長さ3〜5mm、狭い卵状披針形で全縁、葉頂は軽く尖り、透明尖の痕跡のような細胞があり、中肋が先端に達し、上半部は中肋にそって竜骨状に折り畳まれる(e, g, h)。葉頂が幅広で鈍頭の葉もかなりある(g)。
 葉身細胞は、葉の中程では矩形で長さ10〜15μm、上半部では丸味を帯びた方形で長さ8〜10μm、基部では長い矩形で長さ20〜30μm、いずれの部分でも葉身細胞の幅は5〜10μm。壁(膜)は波状に肥厚し、壁表面には縦に沿って、多数の背の低い乳頭が見られる(i)。葉の折れ曲がった部分の細胞壁をみると、半球形の乳頭が密に覆っている(k)。
 葉の数ヶ所で横断面を切り出して、中肋部をみた(f, j)。葉の基部近くから中程までは、ステライドらしい構造がみられるが、葉の上部にはみられない。茎の横断面に中心束はない(l)。

 チョウセンスナゴケ Racomitrium carinatum として取りあげたが、はなはだ心許ない。肉眼的な形態からギボウシゴケ科までは間違いなかろう。平凡社図鑑の検索表をたどると、シモフリゴケ属 Racomitrium に落ちる。属から種への検索表をたどると、ミヤマスナゴケ R. fasciculare、ナガエノスナゴケ R. fasciculare var. atroviride、チョウセンスナゴケの三者が残る。
 ナガエノスナゴケは体が大きく、茎は長い枝を持つという。これは観察結果と一致しない。ミヤマスナゴケは中型で、茎は短い枝をもつというが、平凡社図鑑に詳細な解説はない。一方、保育社図鑑には簡単な解説と図が掲載されている。しかし、これをいくらていねいに読んでみても他種との違いは浮き上がってこない。
 Noguchi "Moss Flora of Japan" にあたると、R. fasciculare について4変種が記されている。しかし、観察結果とこの4変種についての記述を比較すると、何となくしっくりしない。一方、Noguchiに記された R. carinatum をみると、観察結果と比較的近いように感じた。