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[標本番号:No.425   採集日:2008/04/20   採集地:栃木県、鹿沼市]
[和名:カギフタマタゴケ   学名:Metzgeria leptoneura]
 
2008年5月13日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月栃木県鹿沼市の林道脇で、倒木〜腐木を一面に覆っているタイ類を持ち帰った(a)。ハネゴケ属とフタマタゴケ属が混生していたが、主たる群はフタマタゴケ属だった(b)。葉状体は、長さ2〜5cm、幅0.8〜1.3mm、背面は無毛、腹面の中肋部には単生〜双生の毛が密生する(c〜e)。翼部の縁には双生の長毛が密生する(d, f)。
 葉身細胞は五角形〜六角形で、長さ40〜60μm(g)、葉状体先端付近では10〜15μm(h)、いずれも薄膜で、油体のような構造はみられない。中肋細胞は、背面、腹面ともに2〜3細胞幅(e, i〜l)。翼部は15〜20細胞幅で、少しでも乾燥し始めると縁が著しく内曲する。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 あらためて、翼部の縁を高倍率のルーペ(m)や実体鏡(n)で確認した。顕微鏡で見ても、確かに対になった長毛が双生している(o)。中肋部腹側の細胞幅を再確認してみた。やはり2細胞幅(p)〜3細胞幅(q)であり、葉状体の大部分の位置では2細胞幅だった。また、無性芽と思われる組織が翼部の縁にみられる(d, r)。

 形態からフタマタゴケ属 Metzgeria のタイ類には間違いない。当初はヤマトフタマタゴケ M. lindbergii あるいはヒメフタマタゴケ M. decipiens ではないかと思っていた。それにしては、翼部の縁を覆う双生の長毛がやけに目立つ(m)。また、中肋腹面の毛も、ヤマトフタマタゴケと比較してかなり密であるように感じた。さらに、無毛小球(雄枝)やカリプトラなどが全く見つかない。おまけに、翼部の縁には無性芽らしきものがある。
 となると、ヤマトフタマタゴケやヒメフタマタゴケではない。平凡社図鑑のフタマタゴケ属の種への検索表をみると、カギフタマタゴケ M. leptoneura に落ちるように思える。カギフタマタゴケの解説を読むと、観察結果とほぼ一致するようにも思えるし、かなり違うようにも思える。
 カギフタマタゴケだとすると、図鑑の次の記述と観察結果とは一致しない。(1) 翼部が「著しく内曲」する、(2) 翼部の縁の長毛が「鎌状に曲が」る、(3) 無性芽は「リボン状」、(4) 中肋部の表皮細胞は「2細胞幅」。とりあえず、現時点では典型的なものからは大きく変異したカギフタマタゴケであると捉えておくことにした。