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[標本番号:No.418   採集日:2008/04/20   採集地:栃木県、鹿沼市]
[和名:コムチゴケ   学名:Bazzania tridens]
 
2008年5月15日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 4月20日に栃木県鹿沼市の林道脇の杉林で、杉の樹幹基部にホソバオキナゴケと隣接してマット状に群生していた苔類を持ち帰った(a, b)。茎は長さ2〜4cm、葉を含めた枝の幅は1〜1.5mm、二叉状に分枝して、腹面から多数の鞭枝を伸ばしている。
 樹皮についた状態のまま、やや乾燥気味の群で、腹面を上向きにしてみると、茎や枝には、白褐色の腹葉が多数付いている(d)。採集した標本を紙の上におくと、腹面の鞭のため、立ち上がったような状態となり、茎の基部から中程までは茶褐色で葉をつけていない(e)。
 葉は倒瓦状につき、腹片はなく、腹葉が茎に接するようにつく。乾燥していると、腹葉は明瞭に分かるが、水などで濡れると、透明なために、ルーペなどでみてもわかりにくくなる(f, g)。葉は卵形〜舌型で、長さ0.8〜1.2mm、先端には2〜3歯がある。腹葉は茎幅よりやや広く、丸味を帯びた矩形で、全縁、先が弱く2裂するものが多い(h)。
 葉身細胞は多角形で、長さ20〜30μm、やや厚膜、トリゴンはとても小さい(i)。腹葉の葉身細胞は、大方が葉緑体を含まず薄膜で、基部にのみ葉緑体がみられる(j)。これらは、葉や腹葉の横断面を切り出すとさらに明瞭となる(k)。葉身細胞の表面は平滑でベルカなどはみられない。茎と鞭枝の横断面はほぼ同じで、組織の分化はほとんどない(l)。

 特異な鞭枝を多数つけていることから、ムチゴケ属 Bazzania の苔類だろう。腹葉が透明で全縁、葉身細胞の表面は平滑、植物体は小さく、幅もとても狭いことなどから、コムチゴケ B. tridens に間違いなさそうだ。コムチゴケは、これまでに3度ほどていねいに観察しているが、いずれも、本標本No.418より大きめであった。また、同定には不要ということもあり、過去の観察では、葉と腹葉の横断面は切り出さなかった。今朝はこれらの横断面と茎や鞭枝の横断面を切り出してみた。他のムチゴケ科の観察では、たいてい葉や茎の横断面も観察している。