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[標本番号:No.445   採集日:2008/06/24   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:シナチジレゴケ   学名:Ptycomitrium gardneri]
 
2008年6月26日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 久しぶりに最近採取したコケを観察した。一昨日、石灰岩生の菌類の調査を目的に、奥多摩の石灰岩地を歩いた。全く成果が無かったので、石灰岩地のコケ類をいくつか持ち帰った。今日はそのうちから一つだけ観察した。まだ、5月4日に福島県、6月7日に日光などで採取した蘚類がいくつも、そのままになっているが、とりあえず、採取したばかりの蘚類の観察である。
 標高420m〜750mあたり、陽当たりのよい石灰岩壁に、朔をつけた蘚類が群をつくってあちこちにでていた。葉は乾燥のためか、巻縮して内曲し、朔には帽はなく、朔内部は空だった(a)。雨の後で濡れた岩壁では、葉が基部で反曲し、大きく開いた状態だった(b)。持ち帰った標本はすっかり乾縮ししていたが(c)、湿らすと葉が反り返るように広がった(d)。
 葉は、長さ4〜5mm、楕円状卵形の下半部と披針形の上半部からなり、下半部には縦皺があり縁は全縁、上半部から葉頂部の縁には複数細胞からなる鋸歯があり(e〜g)、中肋が葉頂に達する。葉身細胞は、丸味を帯びた方形で、長さ8〜15μm(h)、卵状の下半部から基部近くでは矩形で長さ20〜30μm(i)、翼部は褐色を帯びた薄膜の大形矩形の細胞からなる(j)。いずれも細胞表面は平滑。葉の横断面を数ヶ所で切り出してみた(k, l)。中肋の横断面には、明瞭なガイドセルとステライドがある(m)。茎の横断面には中心束があり、表皮はやや厚膜で小さな細胞からなる。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 朔を植物体から外してみた(o)。雌苞葉が鞘のような構造となって 基部を取り囲んでいる(p)。朔には既に帽はなく、胞子もほとんど放出していた。湿ると朔歯は閉じ(q)、乾燥すると開く(r)。朔歯は一重で、16枚からなり、それぞれは基部で二裂し、長く延び、表面は微細な乳頭に覆われる(s〜u)。口環はみられない。胞子は径15〜20μmの球形(v)。
 朔柄の基部、鞘状の雌苞葉の付近から、雄苞葉らしきものをつけた小枝が出ている。葉が邪魔をして分かりにくいので、朔柄基部周辺の葉を取り除いてみると明瞭になった(w, x)。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
 雄苞葉らしき部分を取り外してみた(y)。この部分の葉でも、葉身細胞は配偶体の細胞と、ほぼ同様の形をしている(z, aa)。雌苞葉に包まれた部分を、まとめて横断面で切り出してみた(ab)。雄苞葉らしき葉の内側には、中空の組織がみえる。どうやら造精器のようだ。あらためて、別の雄苞葉から雄器を取りだした(ac)。雄器の表面は薄膜で多角形の細胞からなり、内部は中空だった(ad)。また、雄器の周辺には側糸のような構造がみられる。

 ギボウシゴケ科 Grimmiaceae の蘚類に間違いない。検索表をたどると、胞子体基部の鞘の近くに雄小枝があるから、チジレゴケ属 Ptycomitrium となる。平凡社図鑑のチジレゴケ属の説明を読むと、観察結果とよく一致する。属から種への検索表をたどった。
 検索表からはシナチジレゴケ P. gardneri に落ちる。種の解説をよむと、観察結果とほぼ一致する。Noguchi "Moss Flora of Japan" には、シノニムの P. polyphylloides で掲載されている。記載と図を見ると、観察結果とほぼ一致している。