Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.464   採集日:2008/06/07   採集地:栃木県、日光市]
[和名:フロウソウ   学名:Climacium dendroides]
 
2008年7月10日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 先月7日に栃木県の日光で、標高1,300〜1,400m付近のカラマツ林樹下に群生していたコケを採取した(a, b)。一つの茎を掘り出すと、地下で仮軸分枝をした地下茎が繋がっていて、イモヅル状に周辺の茎がついてきた。1ヶ月ほど放置しておいたので、標本はすっかり乾いている(c)。
 水没させると活き活きした葉が戻ってきた(d)。一次茎は、暗褐色で硬くて太く、鱗片状の葉と多数の仮根をつけ、地下を長く這う。一次茎につく小さく鱗片状の葉には、崩れたものが多い。二次茎は、長さ4〜8cm、多数の枝を樹状に出し、枝先は細くならず、茎の下部には大きな鱗片状の葉が密着し、太さにバラツキは大きいが、多くは硬くて太い。
 二次茎の葉は、茎を抱きかかえるように鱗片状に密着し、形を崩さずに取り外すのが難しい。茎葉は幅広い翼部を持った三角形で、長さ2.2〜2.5mm、全体は丸味を持っているが、先端は短く細く尖り、全縁で、弱い中肋が葉長の1/3〜1/2まで達する(e, g)。
 枝葉は、卵形〜舟形の基部をもち、幅広い披針形〜三角形にのび、長さ2〜2.5mm、葉頂部は鈍く尖り、葉縁上半には大きな歯があり、太い中肋が葉頂近くに達し、縦に深くシワが入る(f, m)。二次茎の中程から出る枝の葉と、先の方から出る枝の葉とでは大きさがかなり違う。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 茎葉の葉身細胞は線形で、長さ70〜90μm、幅5〜8μm(h)、翼部では透明で大形薄膜の細胞が並ぶ(i)。茎葉の基部付近の横断面をみると、太い中肋があり、全体は比較的まっすぐ広がっている(j, k)。葉の中程の横断面では、中肋はもはやはっきりしない。茎の横断面には、弱い中心束があり、表面には多くの仮根がつく(l)。
 枝葉の葉身細胞も線形だが、茎葉のそれよりずっと短く、長さ35〜55μm、幅5〜8μm(n)、翼部の細胞は方形だが、茎葉のそれより小さく、非透明(o)。枝葉の横断面を切り出すと、縦シワの様子がわかる(p)。中肋にはステライドがない(q)。枝の横断面には、多数の毛葉が見られる(r)。

 見た目から、コウヤノマンネングサ科の蘚類であることは明らかだ。観察結果は、コウヤノマンネングサ科のフロウソウ Climacium dendroides を示唆している。以前、同じ日光でフロウソウを観察しているが(標本No.33)、今回採取した標本は、別の場所のまったく異なった環境に出ていたもので、若い茎葉が目立つ株だった。遠くから見たとき、まるでミズゴケ類のようにみえた。