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[標本番号:No.448   採集日:2008/06/24   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:ニセイシバイゴケ   学名:Tuerckheimia svihlae]
 
2008年7月26日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 6月24日(火)に菌類仲間の友人と二人で奥多摩に行ったおりに、10種類程度のコケを採集して持ち帰っていたのだが、すっかり忘れて放置したままになっていた。幸いにもこの日採集した苔類はチャック付きポリ袋に入った状態だったので、油体などは観察できそうだ。
 今日観察したのは、標高420mあたり、うす暗くやや湿った石灰岩壁に群生していたセンボンゴケ科 Pottiaceae の蘚類だ(a, b)。茎は長さ7〜12mmで、ほとんど単生だが、下部でわずかに分枝する個体もある。乾燥すると葉が巻縮して色も白味が増す(c)。
 葉は線状披針形で、長さ3〜5mm、葉縁はほぼ全縁だが、わずかに微鋸歯状の部分もある(d)。中肋は太く、先端に達する(f)。葉の基部は透明で、鞘状に茎を包む。KOHに浸すとわずかに黄色みが増す(e, f)。
 葉身細胞は方形〜六角形だが、表面に突出して分岐する大形のパピラのために輪郭がわかりにくい(g, h)。どうやら細胞の径は10〜12μmのようだ。葉の基部から鞘部では矩形で透明の細胞が並ぶ(i)。基部の細胞は平滑だが、それ以外の方形細胞には背腹両面に大形のパピラがある。合焦位置を変えて同一部位で葉身細胞をみた(j)。
 葉の数ヶ所で横断面を切り出してみた(k)。中肋には背腹両面に明瞭なステライドがある。茎の横断面には弱い中心束があり、表皮細胞はあまり明瞭には分化していない(l)。無性芽はみられない。現地でさんざん探してみたが、朔をつけた個体はみられなかった。

 保育社の図鑑でセンボンゴケ科をたどると、該当する属が見つからない。あらためて平凡社図鑑の検索表をたどると、クチヒゲゴケ属やニセイシバイゴケ属、ハナシゴケ属、メンボウゴケ属、ハリイシバイゴケ属などのグループに落ちる。
 朔をつけた個体がないから、すんなりと検索表をたどりにくいが、葉身細胞の形状とKOH反応からクチヒゲゴケ属は排除できる。さらに雌花序がついていないので、検索表からはすすめないが、メンボウゴケ属のパピラは低いということで排除、ハリイシバイゴケ属の表皮細胞はほぼ平滑ということで、これも排除できる。
 残るはニセイシバイゴケ属とハナシゴケ属のグループとなるが、ハナシゴケ属のパピラは微小で多数とあるので、これも排除できる。残ったニセイシバイゴケ属をみると、日本産1種とあり、ニセイシバイゴケ Tuerckheimia svihlae だけが記されている。解説を読み進むと、観察結果とほぼ一致する。「石灰岩地にごくふつうに生育」するとある。