HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.490   採集日:2008/07/20   採集地:群馬県、片品村]
[和名:クロゴケ   学名:Andreaea rupestris var. fauriei]
 
2008年8月4日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 一昨日土曜日(8/2)、栃木県と群馬県の県境をなす温泉ヶ岳と金精山を歩いた。金精山の山頂から100mほど下、尾根上(alt2100)の陽当たりのよい露岩に黒赤色のコケがついていた(a)。ルーペでみると、頭部に四裂した朔をつけている(b, c)。クロゴケだろうと思い持ち帰った。
 茎は長さ12〜15mm、わずかに分枝し、葉を密につける。乾燥していると葉を茎に密着させるが(c, o)、湿ると葉を展開させる(d, n)。葉は卵状長楕円形で、長さ0.6〜0.9mm、背側にわずかに反曲し、腹側を内側として凹む。葉頂は鈍頭で、縁は全縁、中肋はない(e, f)。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 葉身細胞は丸味を帯びた六角形で、長さ8〜10μmのものが大部分だが、それらの中に紡錘形で長さ15〜20μmのものが混じる(h)。葉頂部でも(g)、葉の基部でも葉身細胞はほぼ同様。葉身細胞の背面には大形のマミラがある(i)。数枚の葉をまとめて横断面で切ってみた(j)。横断面を見る限り、背面の乳頭はあまり明瞭ではない(k)。茎の横断面に中心束はなく、表皮細胞は特に分化していない(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 苞葉は、配偶体の葉よりもやや大形で、1.2〜1.5mm、葉頂は鈍頭、葉縁は全縁、全体が鞘状で、葉身細胞は配偶体のそれとほぼ同様(m)。朔の開閉の様子を湿った状態(n)、乾いた状態(o)で、比較してみた。朔の部分をさらに拡大して、湿った状態(p)、やや乾いた状態(q)、完全に乾ききった状態(r)で比較してみた。なお、胞子はほとんど残っていなかった。

 朔の裂開の仕方から、クロゴケ属 Andreaea に間違いない。尾根上の直射日光に曝される場所につき、背丈も葉も小さく、葉頂は鈍頭で中肋がないことなどから、ガッサンクロゴケではない。図鑑のクロゴケについての記述をみると、観察結果とほぼ一致する。
 それにしても、このクロゴケだが、採取から観察まで手こずることが多かった。採集する段階で、千切れたり、砂や岩粒が多量についてくる。さらに、葉を取り外そうとすると、小さな砂粒が邪魔をして、葉がすぐに崩れてしまう。葉の横断面を切ろうとすると、刃先が砂粒にあたってなかなかうまく切り出せず、すぐに刃こぼれが生じる。