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[標本番号:No.449   採集日:2008/06/24   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:ヒツジゴケ   学名:Brachythecium moriense]
 
2008年8月11日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 6月24日に東京都奥多摩町で採集したコケが数点、そのままに放置されていた。今日はそのうちのひとつ、アオギヌゴケ科 Brachytheciaceae ないしヤナギゴケ科 Amblystegiaceae と思われるコケを観察した。標高420m、川沿の林道脇の湿った岩壁に群をなしていた(a, b)。一次茎ははい、長さ3〜5cm、不規則な羽状に枝を出す。二次茎や枝は斜上し、長さ5〜15mm、乾燥すると、葉が茎や枝にやや密着し、湿ると葉が展開する(c, d)。
 茎葉は長さ15〜20mm、卵形〜三角形の基部をもち、葉先が急に細くなって伸びる。葉縁は全縁、中肋が葉長の2/3あたりに達する。枝葉は長さ0.8〜1.2mm、披針形で葉先は尖り、上半部には微細な歯があり、中肋が葉長の3/4近くに達する(e, f)。偽毛葉らしきものはみられない。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 茎葉の葉身細胞(g〜i)と枝葉の葉身細胞(j〜l)を見ると、両者ともほぼ同様の形や大きさで、葉身部の細胞は、細い六角形で長さ40〜65μm、幅6〜8μm(g, j)、葉頂付近でもあまり変わらず(h, k)、葉の基部には、翼部から中肋にかけて方形の細胞が並ぶ(i, l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 茎葉の横断面(m)、枝葉の横断面(n)をみると、中肋にステライドはなく、葉身細胞の表面は平滑。茎や枝の横断面には、弱い中心束があり、表皮細胞は、薄膜の細胞が並ぶ(o)。
 朔柄は長さ10〜12mmで平滑(r)、朔歯は二重で各々16枚(p)。現地で一見朔を直立させてつけているかのように見えたが(a)、よく見ると、非相称だった。帽や蓋はすでになかった。朔表面に気孔はなく、外朔歯には横状が目立ち(q)、外朔歯先端部は微細な乳頭に覆われる。口環は見あたらない胞子は球形で、径18〜22μm。胞子はかなりの比率で、発芽をはじめていた。

 はじめにヤナギゴケ科の検索表をたどってみた。どうにも該当する属が見あたらない。ついで、アオギヌゴケ科の検索表をたどると、アオギヌゴケ属 Brachythecium に落ちる。平凡社図鑑で種への検索表をたどった。茎葉の先は毛状で、葉身部の縦皺は弱く、枝葉上部に微歯があり、茎葉翼部の細胞は方形で中肋近くまであり、葉身細胞の幅は比較的広いことなどから、候補として残る種は、クロイシヒツジゴケとヒツジゴケの2種となる。クロイシヒツジゴケの葉身細胞は長さ75μmという。これは観察結果とは違う数値だ。残る葉ヒツジゴケ B. moriense だけとなる。ヒツジゴケの解説を読むと、茎葉の長さがかなり違うが、それ以外の形質状態は概ね一致する。