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[標本番号:No.472   採集日:2008/07/19   採集地:岐阜県、高山市]
[和名:ヤマトヒラゴケ   学名:Homalia trichomanoides var. japonica]
 
2008年8月18日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 7月に岐阜県の安房平で苔類と思って採集したコケを観察した。標高1450m、針葉樹林の樹下の暗く湿った岩から腐植土上に群生していた(a)。すぐには観察できないことや苔類だと思っていたこともあって、チャック付きポリ袋にいれて保管しておいた。
 茎は不規則に分枝し、長さ1〜2mmの二次茎をだす。葉を含めた茎の幅は、二次茎の中程で1.5〜2mm、茎の先の方は時に鞭枝状になる。葉は扁平に付き、乾燥すると全体が軽く巻き込むことはあっても、縮れることはない(b, c)。
 二次茎の中程の葉を取り外してみた(d)。茎の中程の葉は、長さ1〜1.5mm、倒卵形で非相称、葉頂は鈍く尖り、葉縁には微歯があり、基部の片側の縁は内曲する(d〜g)。中肋は葉長の3/4あたりに達する。枝先の小さな葉は、長さ0.2〜0.5mmだが、葉縁や中肋の様子は同様。
 葉身細胞は、葉頂付近では菱形で、長さ10〜15μm、やや厚膜で平滑(g)。葉の中央部では長めの六角形で、長さ20〜40μm(h)、葉の基部では、長さ40〜60μmの矩形の細胞がみられる(i)。葉の中程と基部で横断面を切り出してみた。中肋にステライドはなく、基部では広く(k)、葉中央部では狭い(j)。茎の横断面に中心束はなく、表皮は厚膜の小さな細胞からなる(l)。

 現地ではてっきり苔類だと思って、ポリ袋で採集してきたのだが、今日取りだしてルーペでみると、中肋が見えた。念のために仮根をみると、細胞壁がある。ということは、これはヒラゴケ科 Neckeraceae の蘚類ということになる。
 図鑑の検索表をたどるとヤマトヒラゴケ属 Homalia に落ちる。保育社の図鑑では、日本産2種とあり、ヤマトヒラゴケ H. japonica とナガエタチヒラゴケ H. trichomanoides の二つが掲載されている。観察結果は、ヤマトヒラゴケを示唆している。平凡社の図鑑では、ヤマトヒラゴケ属は日本産1種とあり、ヤマトヒラゴケは H. trichomanoides の変種として、H. trichomanoides var. japonica の学名が与えられている。Iwatsuki "New Catalog of the Mosses of Japan" でも、変種の位置に置かれている。ここでは平凡社図鑑にしたがった。