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[標本番号:No.475   採集日:2008/07/19   採集地:岐阜県、高山市]
[和名:ミヤマホラゴケモドキ   学名:Calypogeia integristipula]
 
2008年8月20日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 7月に岐阜県の安房平で採集したツキヌキゴケ科の苔類を観察した。標高1500m、針葉樹林の林床から岩上にかけて群生していた(a)。採取したものは今日まで、チャック付きポリ袋に入れたままずっと生かしておいた。昨日観察を始めると、小型のヤバネゴケ属の苔類が多量に混生していることがわかり、それを先に観察した(標本No.501)ので、本標本の観察は今日になった。
 白緑色で葉は倒瓦状に密に重なり合い、不規則に分枝し、長さ1〜2cmの枝を出す(b)。葉は卵形で円頭、葉縁は全縁、長さ1mm前後、茎に斜めにつく。腹葉は小さく、円形〜楕円形で、葉頂は凹頭となり、葉縁は全縁、幅は茎径の2.5〜3倍、基部から多数の仮根がでる。
 葉身細胞は、六角形で、長さ30〜50μm、トリゴンはなく、表面はほぼ平滑。葉の背縁の細胞も中央部の細胞も同じような形と大きさ。油体は各細胞に3〜6個、楕円形やらブドウの房状。写真は、背面からの姿(c)、腹面からの姿(d)、腹葉の様子(e)、一組の葉と腹葉を取り外したもの(f)、葉(g)とその葉身細胞(h)、腹葉(i)とその葉身細胞(j)、葉の横断面(k)、茎の横断面(l)。

 枝は腹面からムチゴケ型分枝をしている(d)。また葉が倒瓦状に広く開出し、葉より小さな腹葉を持ち、仮根が腹葉の基部からでることなどから、ツキヌキゴケ科 Calypogeiaceae の苔類に間違いなさそうだ。花被やマルスピウムをつけた個体はなかったが、検索表からはツキヌキゴケ属 Calypogeia と思われる。
 平凡社図鑑で種への検索表をたどると、ミヤマホラゴケモドキ C. integristipula に落ちる。しかし、この種については生態写真だけで解説はない。保育社の図鑑 (1972) をたどると、やはりミヤマホラゴケモドキに落ちるが、学名に C. neesiana を採用している。そこで、井上『日本産苔類図鑑』(1973) をみると、観察結果とほぼ近い形質状態と図が記載されている。
 井上苔類図鑑の当該種の「ノート」には、次のような記述がある。
日本ではこれまで Calypogeia neesiana (Mass. et Car.) K. Muell. またはその変種(var. japonica Hatt.)とされていたものであるが、正しくは上記の学名 [C. integristipula のこと] を用いるほうがよい。C. neesiana のほうは日本にはなく、その亜種(タカネツキヌキゴケ Calypogeia neesiana subsp. subalpina Inou/Inoue)が高山のハイマツ林床に生育する(井上、1971)。