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[標本番号:No.494   採集日:2008/08/02   採集地:栃木県、日光市]
[和名:フジノマンネングサ   学名:Pleuroziopsis ruthenica]
 
2008年9月7日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 8月2日、奥日光の金精峠から続く尾根径の標高2100mあたりで、ミズゴケ群落の中に、異質の大形蘚類が混じっていた(a)。ミズゴケの切れたあたりをみると、周辺にも出ていた(b)。1本を引き抜くと、地下をはう茎でミズゴケ群落の中に続いていた。フジノマンネングサだろうと思ったが自信がないので持ち帰った。
 直立する二次茎は高さ5〜6cm、上部で数回枝分かれして全体で樹状となる(c)。茎には鱗片状に広卵形の葉がつく。茎葉は茎を半周するように密着してついているので、崩さずに取り外すのが難しい。二次茎の葉、枝葉、支枝の葉を外して並べてみた(d)。枝葉は茎葉に比べて極端に小さく、長さ0.6〜1.2mm、卵状披針形で鈍頭、縦に皺があり、縁の上半部には歯があり、中肋が葉頂近くに達する(e)。中肋背面の先端は牙状に突出する(h)。
 茎葉の葉身細胞は、葉の大部分では細い線状で、長さ60〜90μm、幅4〜6μm、下部近くでは6〜8μmと幅広く、長さは50〜60μmと短くなり、基部では幅15〜20μmの大形の矩形となる(f)。枝葉の葉身細胞は、葉先では菱形で長さ15〜20μm、葉の大部分ではウジ虫状線形で長さ25〜40μm、幅3〜5μm、基部では矩形の細胞となる(g)。枝葉の基部には枝表面から連なる薄膜嚢状の細胞列が何列かついている(h)。茎の横断面には中心束があり、表面には毛葉状の組織が密生している。一方、枝の横断面には中心束はなく、表面には高さ数細胞からなる薄板状の組織がある(i)。

 コウヤノマンネングサなら、二次茎や枝の表面には無数の毛葉があり、薄板はないという。一方、フジノマンネングサなら、枝の表面には1〜4細胞高の薄膜細胞がウネ状に縦に並ぶという。これを、フジノマンネングサの枝表面には縦溝があると、記した書もある。外見的には、上部の小枝の分枝の仕方で、コウヤノマンネングサは1回まれに2回分枝し、フジノマンネングサは2回まれに1回、密に分枝するという。両者を並べてみれば、コウヤノマンネングサはやや硬い感じ、フジノマンネングサは柔らかく繊細な感じ、と記した書もある。
 要は、枝表面に薄膜細胞からなる薄板が縦に並んでいることを確認できれば、フジノマンネングサであるといえることになる。そこで、小枝表面からすべての葉を取り除いて、これを観察してみた(j)。確かに、嚢状の薄膜細胞が縦にウネを作っている。より鮮明な画像を得たいとおもって、フロキシン(k)、サフラニン(l)で染色してみた。この二つの赤色色素で薄板を構成する薄膜細胞は染まらないが、縦の列をつくっていることは確認できた。

 8月23日に長野県富士見町の入笠山(alt 1850m)で、朔をつけたフジノマンネングサを採集した(標本No.502;非掲載)。残念ながら、朔をつけた個体は一つだけで、しかも、蓋などは既に失われ、持ちかえる間に朔壁などは崩れてしまっていた。とりあえず、残った部分だけでも、観察した部分の画像を以下に掲載しておくことにした。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 きのこを求めて雨の入笠山を歩いているとき、朔をつけたフジノマンネングサを見つけた(m, n)。他にもないかと探し歩いたが、この個体一つだけだった(o)。今日標本袋を開いてみると、朔壁は欠け、朔歯もかなり崩れはじめていた(p)。
 口環はない(q)。外朔歯の一部が欠け、内朔歯が露出している(r, s)。濃褐色の部分が外朔歯、淡褐色の部分が内朔歯だ。外朔歯の基部には横条があり(t)、先端は乳頭に被われている(u)。内朔歯の基部(v)、先端(w)、朔壁の細胞(x)を提示した。なお、内朔歯に間毛はない。