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[標本番号:No.508   採集日:2008/09/02   採集地:秋田県、湯沢市]
[和名:マイマイツボミゴケ   学名:Jungermannia torticalyx]
 
2008年9月18日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 今月2日に秋田県湯沢市の湯の岱森林公園で、側溝脇のジメジメした斜面にミズゴケ類と混生するように大形の苔類が厚いマットを作っていた(a, b)。なるべく純群落の部分を選んで撮影し、一部を採集した(c)。直立する茎は、長さ5〜6cm、葉を含めた幅は2.5〜3.5mm、わずかに分枝し、葉を瓦状につけ、腹面には紫色の仮根を多数つける(d〜e)。腹葉はない。
 葉は類円形〜楕円形で、長さ2〜2.2mm、幅2.5〜2.8mm、縁は全縁で、茎に斜めに緩く重なってつき、基部には紫色の仮根がつく(f〜h)。葉身細胞は辺縁ではやや小さく、中心部から基部では大形となる(i)。葉の中央部の葉身細胞は、横長の六角形で、長さ50〜60μm(j, k)、辺縁部では、丸味を帯びた六角形で、長さ30〜40μm(l)、薄膜でトリゴンは小さい。油体は、ほとんどの細胞にあり、ブドウの房状の楕円形ないし紡錘形で、長さ10〜15μm。油体の姿を捉えやすいように、同じ箇所を合焦位置を変えて撮影した(j, k)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
 日常はあまり行わないが、油体の詳細を見るために、油浸レンズを使ってみた(m)。油体には眼点のようなものはない。茎の横断面をみても、組織の分化はほとんどない。葉の横断面をみると、表面は平滑で、細胞膜は薄い(o)。葉の基部から仮根の出る様子は興味深い(p)。

 ツボミゴケ科 Jungermanniaceae の苔類には間違いなさそうだ。平凡社の図鑑から検索表をたどると、ツボミゴケ属 Jungermannia が残る。ツボミゴケ属 Jungermannia の検索表をたどろうとしても、花被をつけた個体がないので、すんなりとは進まない。現地で、多分ツボミゴケ属だろうと見当をつけていたので、花被やペリギニウムをつけた個体を探したが、見つからなかった。
 観察結果と状況証拠をもとに「・・・ではない」方式で、種への検索表をたどると、マイマイツボミゴケ、ハットリツボミゴケ、ホッカイツボミゴケ、ハラツボミゴケなどの群れに落ちる。ただ、これらのいずれについても、平凡社図鑑には解説がない。ハットリツボミゴケとホッカイツボミゴケは「亜高山帯」ということで消去できる。井上『日本産苔類図鑑』のハラツボミゴケ J. rotundata の項を読むと、観察結果に近い記述もあるが、やや違うようにみえる。しかし「(ハラツボミゴケは)近縁性としては同じ西日本に分布するマイマイツボミゴケに似ている点が多い」とある。
 保育社図鑑には、J. torticalyx についての解説がある。これを参照すると、観察結果とよく一致する。同図鑑には当該学名の種に対して、マイツボミゴケという和名をあてている。Yamada and Iwatsuki"Catalog of the Hepatics of Japan" にあたってみると、J. torticalyx には「マイマイツボミゴケ」の名をあてている。本標本はツボミゴケ科の種には間違いないと思うが、花被などを観察できないので、現時点では正確な同定は困難と思われる。ここでは、とりあえずマイマイツボミゴケとしておく。