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[標本番号:No.505   採集日:2008/09/01   採集地:秋田県、由利本荘市]
[和名:ヘチマゴケ   学名:ヘチマゴケ]
 
2008年10月7日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 9月1日に鳥海山で採集した蘚類はほとんど観察を終えたが、ミズゴケ以外にも一つ残っていた。今日はこの蘚類を観察した。鳥海高原の標高1360m、比較的陽当たりのよい岩上に、苔類のスギバゴケ属と混生していた蘚類で、朔ばかりがよく目立った(a)。
 茎は直立し、高さ5〜15mm、光沢はあまり感じられない。乾燥すると、葉が軽く茎に密着し、湿ると上部の葉はやや展開し、どの部分でも葉が反曲することはない。葉は披針形〜卵状披針形で、長さ1.2〜2.2mm、葉縁は平坦で、上部に微細な歯があり、それ以外では全縁。翼部は発達していない。中肋は葉頂近くに達し、先端が牙状になる(d, e)。
 葉身細胞は、長い菱形〜長い六角形で、長さ55〜70μm、直線的で固いイメージがある(f)。葉の横断面を見ると、中肋にステライドはない(g)。茎の横断面には中心束がある(h)。
 朔柄は長さ10〜15mm、下部は暗褐色、上部は明るい褐色で、表面は平滑。朔は非相称で水平から下垂し、洋梨形〜こん棒状で(a, b, i)、朔壁には気孔があり(j)、表皮部分の細胞は丸味を帯びた方形〜矩形で、やや厚壁。
 採取した個体には、成熟した朔はなく、蓋を取り外せるものはなかった。また、朔の形は、摂氏40度ほどの湯に浸しても、生時のような姿には復帰しなかった口環は大きくよく発達している。蓋を無理矢理外すと、未成熟な朔歯の一部を見ることができた。朔は二重で、外朔歯の基部には横条があり、先端部は微細な乳頭に被われる。内朔歯は縦に深い裂け目があるが、間毛は見られなかった(l)。なお、無性芽は全くみあたらなかった。

 ハリガネゴケ科 Bryaceae のヘチマゴケ属 Pohlia だろう。保育社図鑑の検索表をたどるとヘチマゴケとなる。観察結果は図鑑の記述とほぼ近いといえるが、本標本はかならずしも典型的な個体群ではなさそうだ。平凡社図鑑の検索表をたどると、うまく落ちる種にはたどり着けないが、ヘチマゴケについての記述を読むと概ね一致する。保育社や平凡社の図鑑には特徴的な口環については触れていないが、Noguchi "Moss Flora of Japan" には「Annulus larage.」とある。