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[標本番号:No.542   採集日:2008/10/25   採集地:奈良県、川上村]
[和名:ヒロハヒノキゴケ   学名:Pyrrhobryum spiniforme var. bandakense]
 
2008年10月31日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 奈良県川上村で菌類調査に携わっているとき、周辺の渓流に沿った谷の斜面にはヒノキゴケ属の蘚類があちこちで大きな群落を作っていた(a, b)。ヒノキゴケ Pyrrhobryum dozyanum と比較してやや小形で、高さ2〜5cm、枝分かれはほとんど無く、茎の基部周辺にしか仮根はない。葉を密につけ、茎の基部あたりから長い朔柄を伸ばしている(c, d)。
 葉は線状披針形で、長さ3〜5mm、先は細く尖り、葉縁の中程から先には対になった歯がある(e〜g)。中肋は強く、葉頂に達する。各所で葉の横断面を切り出してみると、強い中肋と葉縁の対になった歯がさらに明瞭にわかる(h)。
 葉身細胞は葉頂から葉基部までほぼ同じ大きさと形の丸味を帯びた多角形〜矩形で、長さ6〜15μm、表面は平滑で細胞壁は厚い(i, j)。翼部はほとんど分化していない(j)。中肋部は横断面で三角形をなし、背腹両面にステライドがみられる(k)。茎の横断面には発達した中心束があり、表皮細胞は厚壁の小さな細胞からなる(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 朔柄は植物体の茎の途中からではなく、基部付近からでている。朔には帽が失われていたが、十分に成熟していた。蓋は尖った嘴状で、朔歯は二重、内外ともに16枚の朔歯からなる(m, n)。内朔歯は高い基礎膜を持ち、先端付近で二つに割れ、歯突起や間毛の表面は微細な乳頭に被われる(o, p)。外朔歯には横条があり、中程から先端には無数の乳頭がある(q, r)。
 朔には明瞭な口環があり(s)、朔の基部周辺には気孔が見られる(t)。朔を横断面で切ってみた(u)。朔壁は外壁は一層で細胞壁は厚く、内壁は3〜4層の薄膜の細胞からなる。胞子は球形で、径10〜18μm(v)。朔柄の中程と基部付近で横断面を切ってみた(w, x)。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(za)
(za)
(zb)
(zb)
(zc)
(zc)
(zd)
(zd)
 雌苞葉は、長さ4〜5mm、卵形の鞘部から急に細くなって針状に伸び、針状部の縁には大きな歯がある(y〜zb)。中肋は太く先端に達する。針状部の上半の葉身細胞は、他の葉の葉身細胞と似ているが、下半から鞘部の葉身細胞は長い矩形〜ウジ虫状で、長さ20〜80μm、壁は比較的厚い(zc)。鞘部の基部では薄膜で大形の矩形細胞からなる(zd)。

 ヒノキゴケ属 Pyrrhobryum の蘚類には間違いない。保育社の検索表をたどると、「胞子体は茎の基部につく。茎に仮根は少ない」から、ヒロハヒノキゴケ Rhizogonium badakense となり、種の解説を読むと観察結果とほぼ一致する。
 一方、平凡社図鑑の検索表によれば、保育社図鑑と同じ形質状態をキーとして、ハリヒノキゴケ Pyrrhobryum spiniforme となる。そこで、種の解説を読むと、苞葉のサイズがあまりにも異なり、分布域も違う。同図鑑にはハリヒノキゴケの変種として、リュウキュウハリヒノキゴケ var. ryukyuense とヒロハヒノキゴケ var. badakense に触れている。リュウキュウハリヒノキゴケは雌苞葉の形がことなり、分布域も違う。ヒロハヒノキゴケについての解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。さらに「雌苞葉は大きく、長さ4.5mmくらいになり」とあるので、一般の葉と雌苞葉を並べたものをあわせて撮影した(za)。