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[標本番号:No.541   採集日:2008/10/25   採集地:奈良県、川上村]
[和名:オオカサゴケ   学名:Rhodobryum giganteum]
 
2008年11月1日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 奈良県川上村で菌類調査に携わっているとき、周辺の渓流に沿った谷の斜面(alt 450m)にはオオカサゴケと思われる大形のコケが群生していた(a)。掘り出してみると地中から仮軸分枝をした匍匐茎がでてきた(b)。直立茎の頂端には濃緑色の葉が密集し、ボタンの花が開いたような姿をしている(c)。非常に大形で、この部分の直径は3〜3.5cmほどある。
 地上に直立する茎は、長さ4〜8cm、径1.2〜1.8mm、ほぼ全面に鱗片状の赤紫色をした小さな葉が、密着している(d)。直立茎下部では鱗片状の葉をさらに無数の仮根が被っている。小さな葉は、卵状披針形で、長さ3〜4mm、葉縁上半には小さな歯があり、中肋は葉頂に達する(e〜g)。葉身細胞は、細長い六角形を主体とした多角形で、葉身の大半では長さ50〜60μm(h)、基部では長さ20〜30μm(i)。葉縁部では幅が狭くなっている。葉の横断面をみると、葉縁では葉身細胞の幅が狭くなっている様子がわかる(j)。中肋断面には、ガイドセルやステライドの分化はない。直立茎の横断面には、中心束があり、表皮細胞はやや厚壁で小さく、無数の仮根を出す(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 直立茎頂端に密集する大形の葉は、長さ12〜20mm、狭い基部から倒卵形に広がり、葉頂は軽く突出する(m, n)。葉縁には部分的に舷のような構造がわずかにあり、大形で対になった牙状の歯をもつ(o, p)。太い中肋がほぼ葉頂に達する。これらの葉がそれぞれ重なりあわないように、大小うまくバランスをとりあって、全体としてカサを広げたような状態を作っている(c)。
 葉身細胞は六角形で、長さ60〜110μm、幅25〜40μm、細胞壁のところどころに小さなくびれがある(q, r)。葉の基部では、長さ100〜150μmに及ぶ多角形〜矩形の大形の細胞が並ぶ(s)。葉の横断面をみると、どの部分でも強い中肋が顕著で(t)、中肋に隣接する葉身部は2〜3細胞層の厚みをもつ(x)。中肋の横断面には、中心束様の構造があり、ガイドセルやステライドはみられない(v)。中肋部の表皮細胞は小形でやや厚膜となっている。葉の横断面で葉縁をみても、舷の存在はハッキリしない(w)。

 非常に特徴的な姿から、一目見てオオカサゴケ Rhodobryum giganteum だろうと思ったが、念のために図鑑類にあたってみた。朔をつけた個体が得られなかったが、観察結果は、ほぼ図鑑類の記述と一致する。保育社図鑑には「雌雄異株でめったに朔をつけない」とある。保育社、平凡社両図鑑には、直立茎につく鱗片状の小形の葉についての詳細な解説はない。Noguchi "Moss Flora of Japan" には、鱗片状の小形の葉についても詳しい。また大形緑色の葉の横断面の図があり、葉縁はみごとに渦状に描かれている。さらに "The sporophytes are rare" と記される。保育社図鑑の記述はこれに拠ったのだろう。