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[標本番号:No.473   採集日:2008/07/19   採集地:岐阜県、高山市]
[和名:ホソバミズゴケ   学名:Sphagnum girgensohnii]
 
2008年11月17日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 暑い夏の日高山市の安房平(alt 1500m)で、暗くジメジメした針葉樹林の樹下一面にミズゴケが群生していた(a, b)。一部ではオオスギゴケの群落と混生していた。
 茎は長さ8〜12cm、淡緑色〜淡緑褐色(c)。枝葉は開出枝より下垂枝が長い(d)。茎葉は長さ1mm前後、枝葉は長さ1.2〜1.5mm(e)。茎の表皮細胞は矩形で表面には0〜1個の孔があり(f)、横断面で表皮細胞は3層(g)。一方枝の表皮にはクビの短いレトルト細胞が3〜4列ある(h, j)。
 茎葉は舌形で、先端は総状となり、葉縁には舷があり、舷は上部では狭いが、中央部から下部では葉幅の2/3まで広がっている(j)。茎葉の透明細胞には、上部から中部では隔膜がなく貫通している(k, l)。茎葉下部では隔膜がある。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 (開出枝の)枝葉は、卵状披針形で(e)、葉上半は僧帽状、先端はややササクれ、縁は全縁で、深く凹む。開出枝と下垂枝の両者の透明細胞に大きな違いはないので、透明細胞の画像は開出枝についてのみ掲載した。

(m) 枝葉の背面上部、(n) 枝葉の背面中央、(o) 枝葉の腹面上部、(p) 枝葉の腹面中央、(q) 開出枝の葉の横断面、(r) 下垂枝の葉の横断面

 枝葉背面中央の透明細胞には、縁に貫通する楕円形の孔が並んでいる(n)。一方、枝葉腹面中央の透明細胞には、ほとんど孔は見られない(p)。腹面上部の透明細胞には孔が見られる(o)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は台形〜楕円形で、台形では腹側に底辺があり、楕円形の細胞では腹側により広く開いている(q, r)。

 茎や枝の表皮細胞に螺旋状肥厚がないから、オオミズゴケ節 Sect. Sphagnum ではない。茎葉が大形ではないし、舷が大きく広がっているから、ウロコミズゴケ節 Sect. Squarrosa ではない。さらに枝葉の葉緑細胞が腹側に広く開いているから、キレハミズゴケ節 Sect. Insulosa でもなく、キダチミズゴケ節 Sect. Rigida でもなく、ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata でもない。となると、スギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia のミズゴケということになる。
 平凡社の図鑑でスギバミズゴケ節の種への検索表をたどると、茎葉は舌状、茎葉の透明細胞は側壁しか残らず、茎は淡緑色で、茎の表皮細胞には孔がある、などからすんなりホソバミズゴケ S. girgensohnii にたどりつく、種の解説を読むと、観察結果とほぼ合致する。念のために、滝田(1999)を読むと、ホソバミズゴケとしてよさそうだ。


◎滝田謙譲 1999, 北海道におけるミズゴケの分布およびその変異について. Miyabea 4 (Illustrated Flora of Hokkaido No.4 Sphagnum): 1-84.